21話-2 勝手な要求 ページ30
「よっと、ふふふ……てめーはそうやって黙って俺の言う事聞いてりゃーいいんだよ。……おい承太郎、背中がかゆい。かけ」
言われた通りにダンの背後に立って背中をかく承太郎。何も知らない人から見れば奇妙な光景だろうな、と考える。
「ん、もうちょい下だ。もっと下……そこだ、爪を立てるなよ」
そう言えば、ふと思う。あの男の感覚が数倍になって伝わっているという事は今の背中をかかれている感覚もジョセフさんに伝わっているのだろうか。
……だとしたら、ジョセフさんに少し申し訳ないな。でも、あいつが良いと言うまでやめることはできない。頑張って耐えてください、ジョセフさん。
しばらく待っているともう背中をかくのは要らないようでダンは移動をし始めた。それに承太郎と私はついて行く。
「……ごめん、承太郎」
ひっそりと、謝る。しかしその呟きは本人に聞こえていたようで。
「なんでてめーが謝る必要があるんだ」
「え、だって、私は何もさせられてなくて、承太郎ばっか痛い目にあってるし……なにか肩代わりっていうかそういうのが出来たらよかったのにって思って」
しどろもどろになりながら小声で説明する。
私としては正直見ていられないのだ。承太郎のように高潔な人間があんなクソみたいな男に従うしかないことに心が苦しいと感じる。自分が何かできたらいいのに、と感じてしまう。
「……やっぱりてめーはおせっかいでお人よしだな。あいつが指名してんのは俺だ、俺がやるしかねーだろうよ。煙崎、おめーは俺を見張るためにいるんだろ。だったらそうしろ」
「……そうね、そうするわ」
行先は金品を売っている店の前にある公共のベンチのような、テーブル席のような場所だった。そこに座り、承太郎に靴磨きをさせている。
今のところ私には金を奪われたこと以外被害はないが、こうやって仲間がいいように扱われているのを見ているだけしかできないのは、やっぱり心が苦しい。
「フハハハハハハハ！！ ほれッ、なにやってんだッ！ しっかり靴磨きしろ承太郎ッ！」
そう言って靴を磨いていた承太郎の顔を蹴る。見ていてとても痛そうだ。
「……承太郎」
心配になって承太郎の名前を呼ぶ。すると彼は「大丈夫だ」とでも言うようにこちらに視線を送ってきた。
「私は今すごーく機嫌がいいッ！ 私の今の気分と同じくらい晴れた空がクッキリ映り込むぐらいピッカピカに磨いてもらおーかな……」
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作者名：中条琉乃 | 作成日時：2017年10月10日 22時
