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「おお、さっきより随分と軽い」
髪を結びながら驚いた表情を見せるAに、当たり前だとばかりに胸を張る双子
こんな技術もってんのかよ。と少し羨ましく思ったAだが、これも家柄があるのだろう。と首を振って考えるのをやめる。
「なんか、助かった?よ。ありがと」
やや疑問形の感謝の言葉だったが、双子は満足そうに頷いた。
しかしAは立ち上がりながら別の事を考えていた。
______この間の埴之塚先輩の謎の質問の相談しようと思っただけなのに、普通に髪切ってもらっちゃったな
ありがたくお言葉に甘えてしまったが、自分が彼等に返せるお礼なんてタカが知れている。
だからこそ、少し謎の後ろめたさを感じ、Aは目をそらす。
______埴之塚先輩の事は別の人に相談しよう
一番身近で話しやすいオカネモチが光君と馨君だったから、相談しようと思ったが一方的に借りを作ってしまった。
一体どうしたもんかなぁ。そう息を吐き出そうとして
「さっきの話だけどさ」
「ん?」
Aが振り返れば、目の前には馨がいる。
光はもうゲームの方に興味が戻ったようで、ソファに腰かけていた。
その違いに軽く動揺しながら、Aは馨を見上げる。
「えっと?」
「さっきのなんで桜蘭入ったかって話」
そう言いつつ、「ほら、もう一回座って」と着席を促してくる。
そんな展開について行けず、言われるがままにAが座れば、馨はAの前髪に櫛を通し始める。
「わかんないけど、僕はただの世間話だと思うよ」
すっ、と通った櫛の感覚にAは目を閉じる
「あ、やっぱそう思う?」
口だけを動かして、同意しかける前に馨が先に遮った
「それか、ちゃんとAに興味があったか」
「んえ?」
思いもしなかった答えに、Aは思わず目を開き上を向いた。
「ほら、まだ途中だから」
その先には当たり前だが馨がいて、案外真面目な顔をしている。
ちゃんと座って。そう言われてまた姿勢を正せば櫛が動き始める
「どういこと?」
Aは目を開いたまま馨を目だけで見上げた。
そんな彼女を、なんてコト無さそうに見下ろして馨は言う
「さっきから全部『興味ない』で済ませちゃってるけど、その人は違うかもしれないじゃん」
まだ理解ができない、というように少し眉を潜めたAを見つつ馨はヘラァと笑った。
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作者名:きゅういち | 作成日時:2020年1月28日 20時