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ダンッ
そんな振動と共に、彼は踏み切る。
体育館の光に煌めく汗より、放られたボールに全員が息を飲んで
パシュ_______
キャアアアアアアアア
歓声が、轟いた。
圧倒的に女子の多いその声が体育館に溢れかえる
「さすが常陸院様!!!!」
「桜蘭のエース!!!」
笑顔の二人に、頬を染めた少女達の声量が倍になる
「今決めたのは光くん?馨くん?」
「どっちでもいいわ!」
「どっちも素敵!!!」
きゃーきゃー
黄色い声が飛び交う中、パイプ椅子に腰掛ける片割れに声かける。
「か、馨くんタオルを…」
差し出された柔らかな布をチラリと見て、
彼____
「……僕は光だけど」
_______光は目をそらす。
「あ、ごめんなさ……」
「別にいい、慣れてるから」
女生徒の謝罪を遮り、ボトルの飲み口に口をつけようとした光だが
ピィィィィイイイイイイイ!!!!!!!!!
甲高いホイッスルの音に、刹那目を細め、慌てたように立ち上がり叫ぶ
目に飛び込んできたのは、慌てる大人たちと
ざわめくチームメイト。
そして
膝を抱え、横に倒れる
「馨!!!」
パイプ椅子が転がるのにすら気を止めず、馨の下へ駆け寄り、光が手を伸ばす。
苦しそうな馨に、彼に触れーーーー
「光くん君はダメだ!」
る前に、肩を掴まれる。
「君は試合に」
「だまれ………!!!」
膝を抱える馨よりも切羽詰まった表情の光は、小さく震えていた。
触れなければわからない程のその揺れに、慌てふためく周りは気づかない。
けれど、彼だけは。
「光」
どんなに周りが煩くとも
どんなに荒れた状況でも
馨の声は、馨の声だけは、はっきりと聞こえる。
光の事は、光の事だけは、はっきりと理解できる。
「落ち着くんだ、僕の痛みを感じ取っちゃいけない」
頬に寄せられた馨の手に、光は自分の手を重ねた。
温かさを感じるように、ゆっくりと握るが、荒い息はそのままで
震える光に、ただゆっくりと、諭すように馨は続ける
「いいな、怪我してるのはお前じゃな……」
「馨…」
「無理だ。…痛い…痛いよ馨」
こぼれ落ちた涙に、馨は目を細めるしかなかった。
____お前の痛みは僕の痛み
.
.
.
_______サァ_______
雨が
降っていた。
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作者名:きゅういち | 作成日時:2020年1月28日 20時