3 ページ3
「あの」
「なんだい?」
北国銀行に移動し始めて数分、私は早くもピンチを迎えていた。
「手、離してください」
そう、まさかこの男、行くと言うや否や私に恋人繋ぎをかましてきやがったのだ。
「んー、なんで?」
ふざけてるのだろうか。
今すぐ蹴りをお見舞いしたいところだが、実力差的に勝てないので遠慮しておく。
ったく何でこの男は強いんだか。
神は二物を与えないとはよく言ったものですよ。
「なんでって、もうすぐ離月港ですよ。……このような姿は世間一般では恋人と称されるのです」
すると彼はこちらを見て、なぜか上機嫌になるこの男。……いやなんで。
「あははっ、俺と君が恋人だって?」
うわ、なんか嫌な予感がする。
彼はこちらに少し近づいてきて____
「______それも悪くないかもね」
「ひっ……」
キザったらしく、わざわざ耳元に寄って囁いてきた。
無駄にいい声で話さないでほしい。心臓に悪い、まじで。
私の反応を見て楽しむ彼。
上司に対して無礼なことだが、私は彼をできる限り睨みつける。
するとこいつはなぜか目を合わせてくる。
なんで、と一瞬思ったが、すぐに見つめあう形になってしまっていることに気が付く。
それで私が恥ずかしくなって目を背けると、また笑われる。
ああもう!!!
ほんっとにうざいったらありゃしない。
「〜〜〜私先に行きます」
これ以上同じ空間にいたくない。
私は無理やり繋がれてたいた手を解いて、早歩きで彼を抜かす。
付き合ってられない。だからあいつは嫌なのだ。
______
___
「離れられた……」
少し進み、多分あの人の目から逃れたところで、やっと緊張の糸が解ける。
__その瞬間。
頭の中で、まだ耳に感触の残るあの声をリピートしてしまう。
『____それも悪くないかもね』
「あ”ぁーーーー」
つい声を出してしまい、周りの人たちから白い目を向けられる。
もう最悪最悪!!
周りの目線に恥ずかしい思いをしながら私は、まだ熱さの残る顔を風で冷やしながら北国銀行へと向かった。
137人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:りんた | 作成日時:2024年2月6日 13時