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「あの」



「なんだい?」





北国銀行に移動し始めて数分、私は早くもピンチを迎えていた。





「手、離してください」





そう、まさかこの男、行くと言うや否や私に恋人繋ぎをかましてきやがったのだ。





「んー、なんで?」





ふざけてるのだろうか。



今すぐ蹴りをお見舞いしたいところだが、実力差的に勝てないので遠慮しておく。



ったく何でこの男は強いんだか。



神は二物を与えないとはよく言ったものですよ。





「なんでって、もうすぐ離月港ですよ。……このような姿は世間一般では恋人と称されるのです」





すると彼はこちらを見て、なぜか上機嫌になるこの男。……いやなんで。






「あははっ、俺と君が恋人だって?」





うわ、なんか嫌な予感がする。



彼はこちらに少し近づいてきて____











「______それも悪くないかもね」




「ひっ……」





キザったらしく、わざわざ耳元に寄って囁いてきた。



無駄にいい声で話さないでほしい。心臓に悪い、まじで。





私の反応を見て楽しむ彼。



上司に対して無礼なことだが、私は彼をできる限り睨みつける。





するとこいつはなぜか目を合わせてくる。



なんで、と一瞬思ったが、すぐに見つめあう形になってしまっていることに気が付く。



それで私が恥ずかしくなって目を背けると、また笑われる。





ああもう!!!



ほんっとにうざいったらありゃしない。





「〜〜〜私先に行きます」





これ以上同じ空間にいたくない。



私は無理やり繋がれてたいた手を解いて、早歩きで彼を抜かす。



付き合ってられない。だからあいつは嫌なのだ。




______
___





「離れられた……」



少し進み、多分あの人の目から逃れたところで、やっと緊張の糸が解ける。





__その瞬間。





頭の中で、まだ耳に感触の残るあの声をリピートしてしまう。








『____それも悪くないかもね』








「あ”ぁーーーー」





つい声を出してしまい、周りの人たちから白い目を向けられる。



もう最悪最悪!!



周りの目線に恥ずかしい思いをしながら私は、まだ熱さの残る顔を風で冷やしながら北国銀行へと向かった。

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作者名:りんた | 作成日時:2024年2月6日 13時

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