木槿のふたり (ページ43)

今日:2 hit、昨日:9 hit、合計:17,125 hit

ひとりごと、ふたりごとページ43

「んふ、いい飲みっぷり」

いつの間にか会場の隅っこのテーブルには私ひとりで、目の前の席に大野さんがぽすん、と座った。

「いいんですか、こんなとこいて」
「いーのいーの、人ごみニガテ」
そう言ってから、何を話すんでもなくちびり、ちびりとお酒を飲んでいた。

私は、視界に入る時計の針から逃げるように、飲むペースをあげていって。
頭がふわふわ、を通り越してぐわんぐわん、と揺れてきた頃。

「あの、これは独り言なんですけど、聞いてもらってもいいですか」
「うん、音聞いてるの得意」
大野さんの斜め上の解答が面白くって、笑ってしまった。

「あのね、大好きだった人に、もう一生会えなくなっちゃったんです、急に、3年前のあした」
「うん」

「それでね、会いたくて会いたくて、ずーーっと忘れられなくて。その人、生まれたときからずっと一緒だったし、実はすっごい寂しがり屋だし、甘えんぼだから、きっと今も一人ぼっちで悲しいかも」
「うん」

「でもね、最初は寂しくて辛くって毎日泣いてたのが、だんだん2日に1回、1週間に1回とかになって。この間、とうとう声が…声が思い出せなく、なりました」
「そっかぁ」

「大好きなのに…大好きだったのに……。かわいいね、も、大好き、も、結婚しよう、も、全部全部彼の声で聞いたのに…」

なんで松本さんの声と、間違えちゃったんだろ…

圭太………
ごめん……………

ごめんね…………

遠のく意識のなかで、ふわり、と髪が揺れた。