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「今の会話、全部聞いてたっつーこと?」
「う…うん、聞こえちゃった。お取り込み中みたいだったから立ち去ろうともしたんだけど、出入口はそっちだったから出ていこうにも出ていけなくて」
「そうか。かっこ悪ぃとこ見せちまったな」
山田くんは自嘲するようにそう言って、続けて私に話しかけてきた。
「つかよ。電気の消し忘れかと思ってこの部屋まで来てみたんだが、お前はこんなとこで何してたんだ?」
「ん…えっと、私は訳あってこれを取りに来てたの」
彼は存外にも私がここにいる理由について興味があるらしく、さりげなくガラクタを避けながら私のそばまで近づいてきて、そう問いかけた。
不意に距離を詰められたことに僅かばかり動揺しつつ、手元の楽譜を彼に見せてみると、山田くんはそれに目を落とすなり「ん〜…?」と唸った。
「なんだこれ…漢字だらけじゃねぇかよ。魔術書?」
「ぷっ…ち、違うよ。楽譜だよ楽譜」
まさか箏の楽譜のことを魔術書呼ばわりされるとは思わず、つい吹き出しそうになってしまった。
彼は私が笑ったのを見て一瞬目を見開いた後、気まずそうに眉根を寄せた。そしてそのまま、飽くことなき様子で問いを重ねてくる。
「楽譜って言われてもそれ、俺の知ってる五線譜コードとかとはえらく違って見えるけど」
「確かに、見た目の観点でいったら五線譜とはちょっと違うかも。これはね、箏の楽譜なの。私は箏譜って呼んでる」
「へぇ…箏?」
「うん。ちょうど山田くんと同じぐらいの丈をもった、とても大きな楽器。私、校外でそのお箏を習っているんだけど、」
そこまで話して、私は急に冷静になって口を噤んだ。
不自然に言葉を止めた私に、山田くんが訝しげに問いかけてくる。
「おいどうした? 急に黙って」
「あ、いや…初めて会ったやつの話なんて聞いてても、山田くんにとっては面白くないかなって思って。長くなっちゃいそうだし」
ぎこちなく笑ってそう伝える。が、彼は意外にも「んなこと気にしねぇのに」と唇を尖らせてきた。
「俺は、話聞くのは全然かまわねぇから、続けてくれよ」
「? ほんとに? こんな見ず知らずの奴のために話聞いてくれるなんて、優しいんだね」
「…別に。んで? 箏習ってて、それから?」
山田くんは隣の棚に背を預けながら、こちらを見つめてまた問いかけた。
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Rizuki(プロフ) - ここちさん» 恋愛要素少なめの本作ですので、ネット小説の需要を考えると多くの人の目に留まる作品ではないのかもしれませんが…こうやってあなた様のように温かなお言葉をくれる読者様がいることを私は誇りに思います。ありがとうございます、そのお言葉とても励みになりました。 (2021年4月22日 11時) (レス) id: 1b129a5f85 (このIDを非表示/違反報告)
Rizuki(プロフ) - すぎさん» 等身大に書けていましたでしょうか…!?ありがとうございます、そのお言葉とても自信になります(; ;) (2021年4月22日 11時) (レス) id: 1b129a5f85 (このIDを非表示/違反報告)
Rizuki(プロフ) - 通行人さん» 「文字列が美しい」なんて、最上級の褒め言葉ですよ…!(; ;)そんな風に言って頂けて非常に恐れ多いところですが、ありがとうございます。とても嬉しいです。気が向かれましたら是非またいらしてください、いつでもお待ちしております。 (2021年4月22日 11時) (レス) id: 1b129a5f85 (このIDを非表示/違反報告)
Rizuki(プロフ) - ハネムさん» 登場人物も設定も拘りに拘り抜いていた箇所なので、そこに気づいてくださるハネムちゃんのような読者様がいらっしゃると本当に心強い!今後も恐るべき亀更新で進んでいきますが、温かく見守って頂けますと幸いです。いつもありがとうございます大好き(; ;) (2021年4月22日 11時) (レス) id: 1b129a5f85 (このIDを非表示/違反報告)
Rizuki(プロフ) - 夕顔さん» 信じられないほどの亀更新だったにも関わらず、序章完結まで温かく見守ってくださったこと、とても光栄に思います。自由気ままに書いておりますので、もしまたご都合が合いましたら遊びにいらしてください。この度はご感想ありがとうございました。 (2021年4月22日 8時) (レス) id: 1b129a5f85 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Rizuki | 作成日時:2021年1月7日 21時