第七話：虎を被った兎 ページ8
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『虎探し？』
Aが興味を示したのか、訊き返す。
「近頃、街を荒らしている『人喰い虎』だよ。倉庫を荒らしたり畑の作物を食ったり好き放題さ」
虎、なんて大柄な猛獣が此処に居るのか。
Aの疑問は「人を喰った」と云う事よりも「ヨコハマに虎が居るのか」と云う方に向いた。
『ヨコハマに野生の虎は居ないでしょう』
「嗚呼そうさ。ヨコハマに野生の虎は居ない」
野生では無い。話を訊く限り、動物園から抜け出したという訳でもないだろう。
それなら緊急で報道されている筈だろうし。
だとすれば、一番考えられるもの。
『....................異能力』
又は変体型の異能者か。
Aがそう呟いたと同時に、敦がガタンと音をたてながら椅子から落ち、尻もちをついた。
他の三人の注目が一気に彼に向く。
「ぼ、ぼぼ僕はこれで失礼します」
「待て」
床に手と膝を着きながら逃げようとする敦だが、国木田に服を掴まれ、空中で手脚を動かすだけだった。
側から見ればかなり奇妙な光景だ。
「む、無理だ！奴に人が敵うわけない！」
「貴様、『人喰い虎』を知っているのか？」
「あいつは僕を狙ってる！殺されかけたんだ！この辺に出たんなら早く逃げないと──────────」
逃げようとする敦の膝を蹴り、腕を取ると、国木田はその場で彼を拘束した。
痛々しい音と共に、敦は床に倒れ込む。
「云っただろう。武装探偵社は荒事専門だと」
『わ、』
その光景を、周りの客達は何だ何だと眺めている。
Aも逃げようとした敦を手慣れた手付きで拘束する国木田を、物珍しそうに見た。
「茶漬け代は腕一本かもしくは凡て話すかだな」
「まぁまぁ国木田君」
太宰が国木田を宥め、Aは腰の抜けた敦の腕を引っ張って立たせようとした。
華奢な見た目に反して強力な力がぐい、と敦を立たせる。
『平気？』
「う、うん...」
敦の顔は緊張で強張って若干蒼ざめていた。
その緊張は「人喰い虎」の話から来るものなのか、それとも国木田の脅し混じりの発言から来るものなのか。
国木田は客達に「何だ見せものではないぞ」と振り返った。
「それで？」
太宰が敦の傍に寄り、薄ら笑いで問う。
何処かしらから感じる「凡てを話せ」と云わんばかりの圧に、敦は口を開く他無かった。
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作者名：椿 | 作成日時：2024年4月16日 20時
