右岸2 ページ33
｢A様…大丈夫ですか？｣
塞ぎ込んで泣く事しか出来なかった
抑圧さえも壊して泣くという事だから相当悲しかったのだと思う
｢…今は放っておいて頂戴｣
｢分かり…ました。また、暗殺部隊幹部殿が来られた時にはお知らせしますね｣
黙って頷いて、また蹲った
口から発せられる言葉は全て私の意思が伴わない
今一番厄介なのは抑圧された感情よりも勝手に話す口
｢…どうして｣
あの時私は何をされたのだろう
感情系に影響を与える処置が施されたのは確実である
言動と気持が伴わないのも其の所為？
だとしても人間をこんな風に操れるのかしら
ずっとずっと私は此の儘なのかな
不安で不安で仕方がない
｢A様、幹部殿がいらっしゃいましたよ｣
再び黙って頷いて返答した
｢行こうか、A｣
手を差し出されるが儘に私の手を重ね、もたれる様にして歩いた
精神的にも肉体的にも疲労が凄かったから
｢Aは何も話さなくていいよ。僕が出来る限り理解するから｣
感謝を込めて頷いた
導かれるが儘に助手席に座らせられて夜のドライブへ
｢夜景が綺麗ですね｣
此の様な感想等は確り機能してくれるらしい
｢成程、感動系は大丈夫なのか｣
｢其の様ですね｣
思ったより冷たい口調が出てしまった
之も不本意で有ると伝える為に手を振って違うと表す
｢解ってるよ、大丈夫さ。僕に任せてくれ｣
おついちさんが私に与えてくれる安心感だけが頼りだった
｢A、好きだよ｣
｢私は嫌いです｣
｢Aが僕を嫌う訳が無い。之も不本意に違いない｣
確かに合っているが、そうでは無いだろうと言いたい気持ちは押さえた
｢何故私に構うのです？｣
｢敬語も使ってないから違う。Aはお嬢の様な話し方だ｣
おついちさんの私への愛が伝わって来る
如何に私を知ろうとし、如何に覚えてくれていたか
其の優しさが余計に腹立たしさを煽るけど
其れでも私は…
｢大好き｣
｢…A？｣
外を見て大好きな夜景に対する感想だと思い込ませた
ハックされた私の脳は案外騙しやすいらしい
｢一寸した工夫よ｣
少しずつ自我が私の元へ帰って来る
｢っ…？！｣
心臓が一瞬締まって迚痛かった
｢大丈夫？｣
｢私に構わないで下さい。迷惑ですから｣
｢今は痛くないなら安心したよ｣
気にせず会話をしてくれるのは有難い
[おついちさんありがとう]
紙に書いて伝えようとしたが書き終わったら再び心臓が締まるように痛かった
｢…少し休もうか｣
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作者名：姫乃 | 作成日時：2019年5月19日 23時
