キルミーアンドウェイト【呪術廻戦】【短編集】

人生の豊かなひだまり【虎杖悠仁】 ページ10

ずっと追っていたいくらいの幸せ。


波の花のように弾けて振りまかれる幸福は貴方から生まれるものであっても、それを幸福と感じるのは私。


靴下を脱ぎ捨てて、ズボンとスカートの裾をまくりあげて私達は飛沫を上げながら海に入っていく。


磯の香り。


青い春が肌を濡らしながらやって来る。


私たちの繋いだ手が作った輪を恋の風が通り抜ける。



「ねえ、世界に私たちだけしかいないみたい！」



「それ俺も思った！」



世界に私たちだけ。


決してそんなことは無いのに、世界が私達を取り残したみたいだった。


酸いも甘いも辛いも、ぜんぶぜんぶ殺されてしまった後の世界。


泡立った波に立つ白い足首。


重くなった生地を纏って、貴方から音を立てながら生まれる幸せをかき分けて走る。


疲れた結果が幸福なら。


笑っているこの瞬間があの麗しい愛と呼ばれるものなら。



あまりに脆い結末を抱いて走ろう。



貴方の笑顔が好き。


声が好き、肌の感触が好き、手の大きさも心の寛大さも。


悪いことを悪いって、許さないって、そんなところが好き。


大好き、愛してる。




「ねえ、私、悠仁が好き！」


「俺も好き！」


“好き”


この言葉を軽率に使えてしまうほど私は貴方に浸され、絆されてしまった。


私が幸福を求めて、感じて、触れて。



この流れるような恋情を感じながら生きている。



幸福のひだまりのもとを歩いていく。

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