キルミーアンドウェイト【呪術廻戦】【短編集】

きみの言葉で沈みゆく背中【伏黒恵】 ページ37

生まれて、生きて、息をして。


笑って、怒って、泣いて、そして今日までの私を作り上げる。


すべての物事を整理してようやく、親族の苦労がすべて台無しにされたことを悟った。



家にある本や映画なんかには決して載っていないようなこと。

だけど私はこのことについて、詳しくはないけれど確かに知っている。


きっとそんな行為をする。


恵、私わかってるの。


無知が善なんてことは決してないんだよ。


私は正義なんて、悪なんて、目に見えないけれど、恵を正義と言えるかなんてちっとも分からないけれど。


でもね、恵は私にとってのヒーローだよ。


必ずしも善という訳じゃない。


悪いことに対して酷く暴力的になっていたことについては何も言えないけれど。


私を退屈から救い出してくれた。


私を無知から救ってくれたんだよ。




私が笑える毎日をくれた。


私を心配させた。


私はいつだって戸惑ってる。


人間らしい感情に、醜くも愛おしい想像や肉体の数々に。



ここにある感情はすべて君がくれたもの。



「そんなに見るなよ…」



私は黒い髪が闇に溶け込むのを静かに見ていた。


恵、大丈夫、暗闇は君の顔を隠してるから。


だから充分に私に対して屁理屈を言ってくれていいよ。



君が押し付けた唇も、落とした言葉も。


どれも私にとって力を抜いてくれる呪文に過ぎないから。




暗闇がゆっくりと逃げていくこの空間で静かに見つめあっている。


静謐の恋人の麗しい君。


何も言わなくてもいい。


君の吐息は、私の耳を溶かす、既に甘い言葉だから。

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