憂い熱と染め【吉野順平】※if ページ31
胸を震わせる轟音と火の花が黒くまどろんだ空に溶ける。
人々の歓声と煙のにおい。
目や耳に染みてゆく他人事の幸福が随分と愛おしい。
部屋は暗くて、艶のある順平の髪にオレンジや赤などの炎色反応が煌々と映し出されて、映画のスクリーンみたい、と人知れず笑った。
順平は今日はお酒を飲まずに黙って花火を見ている。
わたしたち、せっかく浴衣に着替えたのに疲れたからって帰ってきちゃった。
スマホのトーク画面では野薔薇と悠仁君が写真を送り合って、何で帰っちゃったんですか、という不満が送られてくる。
しょうがない、ふたりとも帰りたかったから。
順平、私は知ってるんだからね。
私と二人だけで見たかったんでしょ、この景色を。
なんてね、ナルシストになんて私なりたくない。
もうぬるいお酒を飲み干して、私は順平に抱きついた。
後ろから、強く。
重力に逆らえない帯が解けかけて、着崩れした浴衣から覗くふくらはぎに戯れるように触れる。
今日は、随分と体温が高いね。
「ねえ、こんなことしてるって分かったら野薔薇は怒ると思う?」
順平を無理やり冷たい床に横たわらせると、力なく笑って。
「試してみる?」
なんて携帯をちらつかせる。
私、順平のそういうところが好きだよ。
微熱で溶けそうな私たちの幸福を、呪いのように引きずっている。
今は言葉なんていらない、ねえ。
「好きって言ったらどうする」
「愛してるって言う」
ほんの数秒で矛盾する私の性を笑わずに肯定する順平。
私はずっと貴方が好き。
まどろんだ黒い夜闇のような髪を流して、額にキスをする。
恥ずかしそうに、嫌そうに顔を歪めて「恥ずかしい」と言う。
もう時間は随分ゆっくりで、今にも私たちはこの場のぬるい空気に溶け込んでしまいそう。
私はね、夏が嫌いだったの。
暑いから、苦しいから。
けれど、順平に出会えてから私は幸せになった。
暑いだけの季節も、動く気にもならない身体も今では好きになれたの。
順平が私といると幸せだって笑うから。
愛おしさに唇に顔を近づけた瞬間、家のチャイムが鳴る。
少し残念そうに笑う順平。
見せつけるように、私も着崩れた浴衣を直さないで玄関に向かう。
沢山の愛情を呪いのように幸福で包んで生きてゆく。
玄関先のかわいい後輩に、空気に、空に。
幸せを見せびらかす、明日はもっと彼を好きになる。
25時のよふかし【狗巻棘】→←わたしが触れられない呪い【伏黒甚爾】
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阿津(プロフ) - はじめまして!こちらの作品読ませていただきました!!なんというか、とても素敵でした。言葉一つ一つが心に刺さってくるような感じがとても好きです。上手く伝えられなくてすみません…( ; ; )これからも頑張ってください!応援しています:) (2020年10月16日 10時) (レス) id: 510d3e29ad (このIDを非表示/違反報告)
ぽりすめん(プロフ) - rukiさん» はじめましてrukiさん!評価のことなのですが夢短編集気に入って貰えたらそれで良しのスタンスで行こう、と思えたので評価機能はオフにしました、まあ評価が怖いだけなんですが…コメントありがとうございます、体調に気を付けてしっかり夜寝てくださいね! (2020年4月26日 23時) (レス) id: 46d4b25c7d (このIDを非表示/違反報告)
ruki(プロフ) - はじめまして!!気になったのですが、評価が出来ないようになっているのは故意ですか?気になって夜しか眠れません← (2020年4月26日 22時) (レス) id: 3e8c5a6235 (このIDを非表示/違反報告)
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