キルミーアンドウェイト【呪術廻戦】【短編集】

たまゆらのウェヌス【伏黒恵】 ページ28

「恵ぃ、男のくせに肌すべすべじゃん」



いやらしく腕の皮膚を撫でながら、少しだけ嫌悪と慕情を込めて呟く。

すべすべ、なんて言いながらお湯で濡れきっているからそんなこと感じれないけど。


触れられる理由にすぎないから否定されるまで誤魔化しておく。


それにしてもいいね、深夜の温泉なんて。


混浴だね、と笑えば嫌そうな顔をされる。

さっきから黙って、恥ずかしそうに。



「何か嫌なことでもあった？」



「嫌なこと以外無いだろ、この空間には」



なんて、照れてるくせに。

赤い耳なんかで言われても説得力が無いんだから。


「んー、恵は照れると嫌味を言うんだな、さては」



「…はぁ」



困ったようにため息を吐いて肩から湯をかける恵。


ねえ、熱いったら。


すったばかりの墨のような黒髪が泳いだあとみたいに濡れて光っている。


飛びつくように抱きつけば、また嫌そうに顔を歪める。

本当は嫌じゃないんでしょ、知ってるんだから。



「お前、本当は俺がはじめてじゃないだろ」



「失礼だなあ、不正解だよ」



確かに私は恵が初めての恋人じゃないけれど、すべてを捧げていいくらいの人なんだよ。



私という水の中に、男の人、魚は飛び込むように入ってゆくけれどみんな病気になってしまう。


そして慌てた私が水槽を割って、本当にそれから。


これを何回か繰り返してようやく私は恵という魚に出会う。


私は水が悪いのか水槽が悪いのか、それとも魚が悪いのか分からなかったけれど、恵と出会って、触れて。



水も水槽もぜんぶ入れ替わったことに気付く。


恵、私は貴方が求めるような善を持って産まれてきた女じゃないんだよ。



「ね、キスしてほしい？」


「のぼせるからいらねぇ」



つれないの、なんて言えば額をくっつけられる。

微熱で溶けそうな濡れた肌が触れる。



恵、君が抱き寄せている私の腰は思ったより強く寄せられているんだよ。


恵、私はね、君の愛さえあればいいなんて思ってる。



こんなこと、嘘くさいなんて言って笑ってくれる？



私は君のヴィーナスになりたい。


このほんの少しの間で私を本物にしてくれる？




「本当に私でいいの」



「嫌だと思うか」



ねえ、恵。


この熱い記憶と慕情の中で私は揺蕩ってゆける。

この手を離さないで、ずっと。



重いなぁ、なんて自虐的に。

私はね、君という魚を逃がす気は無いんだよ。

女盛りであれ【五条悟】→←梅雨雷、甘く染め【吉野順平】※if

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す