キルミーアンドウェイト【呪術廻戦】【短編集】

吠える愛の獣よ、幸福よ【虎杖悠仁】 ページ26

私が生まれて何度目かの春が来て、今、夏が来ようとしている。


悠仁の迷惑にならないよう、メイクやシャンプーも服だって買い変えている途中。


けれど悠仁は当たり前のように笑って、俺は白いワンピース着てるAが好き、と言う。


春に行った海のあの白がきっと悠仁は好きなんだろう。


けれど私にとってはそれがいい。


悠仁が私を飾って、褒めてさえくれれば充分に生きてゆける。



ふたりで笑いながら




朝を憂いで




夜に溺れて




風を集めて




愛を纏って




海に触れて




幸福をありったけ盗んでしまおう。


私は悠仁に夢を見ている。


あのときも、今も、ずっとずっと。



私は生きている。

この地獄で手を離さぬように、一歩、ニ歩、右へ左へ。


人生の幸福の日だまりを影を追って歩いてゆく。


流れる季節も、落ちてゆく夢も、世界のどんな絶景だって悠仁が生み出す幸福になんて敵いはしないよ。


悠仁が幸せになるように、私が呪ってあげる。


呪いを寄せるものだって敵わないくらい呪って、どんなものからも守ってあげる。



吠える愛の獣よ


騒がしい幸福の数々よ



君の優しさと溢れんばかりの幸福と、呪いなんて知らないように回る地球にキスをする。



「私ね、幸福の箱が壊れちゃった」



「え、何で？」



この幸福が君のせいだと言えたら。



「うーん、何でだろうね」



「じゃあ、俺が生きてくうちに直してあげる」


馬鹿だなあ、なんて冗談だよ悠仁。

幸福の箱なんて閉じ込められている幸せの在り処なのに。


壊してくれてありがとう。



「うん」


「期待してて」



ずっとそばにいたい、触れていたい。

なんて言葉が、思いが重くて吐き出せない。


いつか笑って、私のキスと同時に飲み込んで。



嗚呼、騒がしい愛の獣と幸福よ。

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