あわよくば荒野へと【夏油傑】※雰囲気 ページ16
春も冬も貴方の隣に座ることができれば何でもいいの。
貴方の解いた髪の一本一本が意思を持ったように波打ってシーツに散らばる。
白いシーツと黒い絹。
私はその瞬間を切り取ることは出来ないけれども、記憶の何処かで貴方という憧憬を思い出すことがいつだって許される。
この感情は愛しさ以外のなにものでもない。
けれど『好き』という言葉は吃ってしまって、霞んだ恋慕は声帯の桃色のガラスを通り抜けるという当たり前の行為をしてくれない。
ねえ、貴方が言ったとおり、女は特別が好きなのよ。
「何か言いたそうだね」
私の膝に頭をのせた彼は言う。
澄みあがって、音楽みたいに私の鼓膜を震わせる。
悲しくなるくらい美しい声の持ち主は、私のことなどまるでお見通しだった。
溶けそうな慈愛を含んだ黄金色の。
夏を閉じ込めた瞳が私までも取り込もうとする。
もう充分なくせに。
「んー…エアコン入れてもいいかな、って」
「はは、嘘が下手だね」
心底愉快そうに、けれど上辺だけで笑ってキスをした。
このこと、悟にだって硝子にだって言えない。
こんな陳腐な感情を捨てることができたら私は、吃るなんてことせずにあの言葉を言えたのかしら。
「ねえ、教えてほしい?」
「急かしたら怒るだろ、君は」
ゆっくり、けれど確実に。
私は愛の言葉を噛み分けて、必要な言葉を選んで吐いて。
それがどれだけ陳腐で卑しくても、私は言い続ける。
ああ、残りの人生でどれだけの愛を吐くことができるのだろう。
私は、分からない。
だけど愛してる。
生きていくうちで貴方が私を本物にして頂戴、絶対よ。
「やっぱり言えない」
「意地悪だね」
伸ばされた掌はまだ温かい。
私の豊かな絶望と不幸は他人事のように酸素に溶けていった。
Kill me and love 【七海健人】→←甘やかな絶望【五条悟】
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阿津(プロフ) - はじめまして!こちらの作品読ませていただきました!!なんというか、とても素敵でした。言葉一つ一つが心に刺さってくるような感じがとても好きです。上手く伝えられなくてすみません…( ; ; )これからも頑張ってください!応援しています:) (2020年10月16日 10時) (レス) id: 510d3e29ad (このIDを非表示/違反報告)
ぽりすめん(プロフ) - rukiさん» はじめましてrukiさん!評価のことなのですが夢短編集気に入って貰えたらそれで良しのスタンスで行こう、と思えたので評価機能はオフにしました、まあ評価が怖いだけなんですが…コメントありがとうございます、体調に気を付けてしっかり夜寝てくださいね! (2020年4月26日 23時) (レス) id: 46d4b25c7d (このIDを非表示/違反報告)
ruki(プロフ) - はじめまして!!気になったのですが、評価が出来ないようになっているのは故意ですか?気になって夜しか眠れません← (2020年4月26日 22時) (レス) id: 3e8c5a6235 (このIDを非表示/違反報告)
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