キルミーアンドウェイト【呪術廻戦】【短編集】

後からいちばんめ【伏黒恵】 ページ2

善も悪も抜きにして。


良いも悪いも綺麗も醜いも全部捨てて、貴方の生き方の影を踏んでいる。


貴方という人が好き。



任務終わり、ふたりでアイスを買った。


恵はチャレンジャーだよ、普通生姜味なんて買わない。



「僕、恵の悪魔になりたい」


「もう充分悪魔だろ」



「ちぇ、そんなこと言っちゃってさ」



コーンの紙にまで垂れるミルク味の液体を舐める。


想像していた甘さよりもすっきりしている。


僕ら、仲良くてよかった。



「なあ、お前一人称どうにかしろよ」



「へ？」



「それ、僕ってやつ」




「嫌だよ、野薔薇が一人称私だから、対になりたいの」




今日で何度目かの指摘と返答。


呆れたため息が今日も地球に呑まれて溶ける。


地球温暖化だよ、恵。




「あ、お前が悪魔だったら俺は天使だな」



「え、なに急に」



「対になりたいんだろ」



ああ、そうだったな。


僕は恵を甘味の道に引きずる悪魔になりたくて。



そっか、そうだな、恵は天使だ。



「じゃあ僕が悪で恵は善だ、ヒーローだよ」



「俺は呪術師だ」



「いや、天使だよ」





僕に似ていなきゃいい。


似ているほど近くて、似ていないほど遠い。



それがいい。


極端に振ってしまおう。




恵を善の最前列。



僕は後からいちばんめ。






後から君の背中を覗いている。


僕は君が思うほどいい人じゃない。





「おい、ここで寝るな」



「先帰っててよ、なんか感極まったんだよ、急に」



遠い、遠いと距離を置いていけば虚しさが襲ってきた。


言いたくないよ、こんな気持ち。



でもバレる。


僕が鈍くて恵が鋭い。








「はぁ、今日だけ寮まで背負う」


「ありがと」



僕がいちばん、弱いこと。


恵がよく知っている。



「お前が弱かったら代わりに俺が強くなる」


「天使うるさい」


「落とすぞ」




感情に嘘をつく。




白黒つけれない曖昧さは、いちばん遠い人の背中で滲んで黒く塗りつぶされた。

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