ラウンド31 ページ32
あの明け方。
目の前で襖が開いたあの瞬間。
部屋から顔を覗かせたあの霊。
あの時斬った、幼子の霊の面影。
布団の中で眠り続けるAと、全く同じ面影。
やっと分かった既視感の正体。
驚きのあまりか霊の仕業か、自分の体は全く動かなかった。
ただ霊は青白い顔をしてこちらに笑い掛けていた。
それこそ、『にっかり』という言葉が合うような、そんな表情で。
そして霊が、自身の隠れた右目の方にゆっくりと手を伸ばした。そこからの記憶はまるでない。
青江がそう話すのを、獅子王と石切丸はただ黙って聞いていた。
青江は一通り話終わると、自嘲的な笑みを浮かべながら言う。
「もしかしたら…仕返しに来たのかもね」
「仕返しって、その子供の霊がってことか?」
「そう。しかも母親も一緒に斬ったんだ、そりゃ恨まないはずがないさ…」
青江の口角は左右に上がりながらも、ぴくぴくと細かく震えている。
それを見た石切丸は一瞬躊躇うような素振りを見せたが、率直に思っていたことを口に出した。
「青江さん、怖いのかい?」
「まさか」
青江はそれをすぐに否定したが、目はあちらこちらに泳いでいる。図星なのだから仕方がない。
どうしたもんかなぁ、と獅子王は頭を掻いて眉間に皺を寄せる。
「ってか怖くない方がおかしいんじゃねーの。昔斬り殺した奴の手の内に、自分の命があんだぞ?」
「斬り殺した、ねぇ…あれは元々霊だから、殺したことにはならないんじゃないかなぁ」
などと言って論点を変えようとする青江に、石切丸は口調を少し強めにして言った。
「青江さん、話題を変えようとしない。別に私達は、君の弱味に漬け込んで何かしようなどとは思っていないよ。ただ、一人で悩んでいても仕方ないと言っているだけさ」
まあ君が嫌なら強制はしないけど、と付け加える。
青江はやっと観念したのか、困ったように微笑んで一言だけ返した。
「そう…ありがとう」
「お、やっと素直になったなー、偉いぞー」
そんな青江を軽く茶化す獅子王。
解けかけた髪を結い直した青江は、布団を捲って立ち上がる。
「おや、どこに行くんだい」
「お腹空いちゃったから、ちょっとつまみ食いしてくる」
そう言ってそそくさと部屋を出て行く青江の背中に、獅子王は呼び掛ける。
「怒られない程度になー」
分かってるよー、と返す声が遠くなっていく。
石切丸と獅子王も、安心したように顔を見合わせると、布団を軽く整えて部屋を後にした。
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そると(プロフ) - ナツカさん» 一応この物語は完結したら少しいじってpixivの方にも載せたいと思っております!最後になってしまいましたが、これからも楽しく、張り切って書かせて頂きますのでよろしくお願いします♪ (2017年10月8日 23時) (レス) id: 762ecccfb8 (このIDを非表示/違反報告)
そると(プロフ) - ナツカさん» うわああああこんなに褒めて頂けるとは…(´ノω;`)ウレシイ…!!!大体の結末は考えていますが、自分は気分屋なので今とはガラッと変わるかもしれませんね( ˇωˇ )あと現在はもう受験を終えて高校一年生やってます…紛らわしくて申し訳ありません(汗)→ (2017年10月8日 23時) (レス) id: 762ecccfb8 (このIDを非表示/違反報告)
ナツカ(プロフ) - 長文、大変上からの無礼な感想誠に失礼いたしました。ただ、是非完結まで追いたいです。占ツクをやって3年近くたちますが、1番と言っていい程楽しめる作品です。勉強との両立、大変だと思われますが、ご自愛のもと、どうかこの素晴らしい作品を書き上げてください!!! (2017年10月8日 22時) (レス) id: 0606ce557e (このIDを非表示/違反報告)
ナツカ(プロフ) - 先が読めなくて、主人公と刀剣がどう和解するのか、はたまたバッドエンドなのか、予想がつかず妄想が膨らみ大変ワクワクします。本当に、もっと評価されるべきです、何故HIT数がこんなに少ない……! 正直占ツクよりも、pixivなど年齢層の高い場所で受ける作品かもです (2017年10月8日 22時) (レス) id: 0606ce557e (このIDを非表示/違反報告)
ナツカ(プロフ) - ギャグも、キャラをよく理解しかつ自分の中でキャラを動かせてるのだと思います。違和感なく楽しめます。受験生ということでしたが、高校3年生ですか? その年でここまで書けるのは、脱帽、尊敬に尽きます。結末までの構想は練ってあるのですか? 続きが気になります (2017年10月8日 22時) (レス) id: 0606ce557e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:そると | 作者ホームページ:
作成日時:2017年5月6日 18時