【文スト】境界の栞 Ⅵ【太宰治】 (ページ6)

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229葉ページ6

「……“全力で戦え”と言いましたね」

ホーソーンが銃を模した指先に緋文字の銃弾を込める。正しく全身全霊、本気の一撃。

「気が変わりました。貴方の望(のぞみ)を叶えましょう」

───地獄の悪鬼。彼の浮かべた表情を表わすのに、他にどんな表現があろう？
傷を庇いもせずに駆ける彼めがけ放たれた銃弾を〈羅生門〉で斬れば、バラバラになった文字弾が腕を抉っていく。報復とばかりに放たれた黒刃が牧師の頸を斬り、血が噴き出す。並大抵の者であれば、ここで死ぬが……奴は(・・)、笑みを浮かべていた(・・・・・・・・・)。噴き出した血が全て異能によって変換されていく光景には、流石の芥川君も動揺するが───嗚呼、矢っ張り。そうやって、君が不敵な笑みを浮かべた時───

『(君の眼に映るのは、何時も治だ)』

「〈羅生門・連門顎〉！！」

『凄い……ここまで……』

限界まで黒布を用いたその攻撃は私が教えた筈の獄門顎などとは比べ物にならない程の威力で。〈緋文字〉すら喰い破ったそれに、私は思わず吐息混じりにそう零していた。

「───ミッチェル！？」

瓦礫の中へと消えていく牧師の叫びで意識が引き戻される。恐らくあの女性が牧師を庇ったのだろう。私は瓦礫が崩壊していくのを見届けてから、スキマで拠点まで戻った。

《芥川side》
満身創痍の体を引きずって歩くと、瓦礫から染み出す血溜まりの前に膝をついた。

(───「人は誰かに『生きていいよ』と云われなくちゃ生きていけないんだ！！」)

「その様な事………様に云われずとも……判っている……」

流れる様に思いだされるのは、今も脳裏に焼き付き離れない、芥川が師と慕い、そして───今も尚複雑な感情を抱き続ける、Aのあの言葉だった。

(『異能や力だけじゃなく、芯が強い人が強い。それを決して間違えちゃいけない。君にも強い芯があったから、治は君を選んだんだ』)

「貴女にとって、僕は……」

最後は無音となった問いかけは誰にも届かず、嘘の様に静まり返った港湾の潮騒に消えていった。