【文スト】境界の栞 Ⅱ【太宰治】 (ページ8)

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56葉ページ8

『と、いう訳ですよ』

治が咖喱を食べ終えた頃、私はそう話を締めて親爺さんにおまけしてもらった珈琲を一口飲む。

『その後フォローに回ってたら何故か懐かれたし。そういえばあの言葉ってどういう意味だったんだろう？｢貴女が僕を知らずとも、僕は貴女を知っている｣……って』

確か二人きりの訓練中に云われた言葉だ。問い返す前に｢忘れて下さい｣って云われてしまって結局聞けてなかったし。

「Aの事を知ってる……？そんな機会あったっけ」

『でも貧民街に足を踏み入れる事なんて腐るほどあるしなぁ……今度聞いてみるよ。子供達と遊ぶのは楽しかったし』

「そういえば聞いたよ織田作。子供を養っているんだって？それも龍頭抗争で親を失った孤児たちを」

「そうだ」

とある異能者が死んだことにより持ち主が居なくなった二億円を巡り勃発したヨコハマ史上最悪の抗争、龍頭抗争。私も付き合い始めた直後辺りに参戦した戦いだ。

「決して殺さず、凄腕なのに出世に興味がなく、孤児を五人養うマフィア、織田作之助。変わっているねえ。マフィアの中で一番変わっているよ」

『準幹部以上の人間は最早個性の塊だと思うけどね、うん。あと治が一番だから問題ない』

「照れるなぁ」

『まっったく褒めてない』

「酷い！」

バッサリと切り捨ててまた珈琲を一口飲む。美味しい。すると不意に疑問を覚えたらしい織田作がこう問いかけた。

「ところでお前達は何をしに来たんだ？」

「『カレー食べたかったから食べに来た』」

「そうか」

『……取り敢えず、武器庫の暗証番号は──』

私の言葉を遮って着信が入り、顔を顰めつつもそれに出る。

『月影です』

｛作戦が成功しました。特別収監房に収容してあります｝

『ふむ……判ったよ、ありがとう』

通話を終了し、口元に弧を描いているのを感じながら告げた。

『───鼠が罠に掛かった』