【 歌い手 】I truly love you ！【 短編集 】

彼氏、いますか？【あほの坂田】 ページ5

「Aさーん、また残業…？」


『うん、中々終わらなくって』


午後20時。

パソコンに向けていた目線を、私は声をかけてきた人へと移した。

彼の名前は坂田優斗くん。

これでも同僚なんだ。


「部長いっつもAさんに仕事押し付けるよな〜」


『あ、ううん！私は大丈夫なの。やり甲斐感じるし、私に頼ってくれてるの嬉しいから』


まあそれは本音であって嘘ではない。

ただ少し面倒くさいっていうのはあるけどね。

やり甲斐を感じたり嬉しくなるのも、また事実。



「そっか、Aさん偉いなぁ…俺なんて絶対そうは思えへんのに」


いつの間にか隣の椅子に座っている。

ここは私と坂田くん以外いないから誰にも見られることはない。


「今度残業なかったら連絡してくれへん？」


『あ、うん。連絡する。でもなんでわざわざ…』


変なこと聞いちゃったかな。

坂田くんは思わず口に手を当てて視線を逸らす。


「Aさんはさ、彼氏とかっておる…？」


『彼氏？』


そういえばできたこともなかった。

告白したこともされたこともなく社会人になっちゃったからなぁ…。


『いないけど…？』


「そ、そう？」


すると嬉しそうにこちらに向いて、目線もきちっと合わせてきた。


「残業ない日にさ、俺と二人で出掛けない！？」


『出掛ける…？』


「あー…ダメならええんよ！Aさんがいいって言うならっていう話だからさ！」


まあ家に帰っても誰もいないし、特に家でやることもなく暇だから…。

暇つぶしにはなるかな。


『うん、いいよ。頑張って残業終わらせるから』


「わー！ありがと！」


じゃあ残業頑張ってね、と言い残すと坂田くんはスキップしながら去っていった。

よし、残りの仕事頑張ろ。


そして次の日の夜、坂田くんとのお出掛けの帰りに引き止められ、人生初の告白をされるなんてこの時はまだ知るはずもなく。

私はパソコンの文字を打ち始めた。


＊

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