【 歌い手 】I truly love you ！【 短編集 】

近くて遠い【うらたぬき】 ページ3

幼なじみは近くて遠くて。

会社の同じ職場、って立場も近くて遠かった。





「うらたん。」

「…あ、A…」

うらたんこと、浦田渉。

…私の幼なじみ。

で、偶然にも同じ職場。

ほんとに、偶然で。

「仕事はどーお？」

「まぁまぁ。そっちは？」

「私もかな〜」

…なんて、他愛ない話をするだけでも楽しくて。

…私は、「友達」としてじゃない…別の感情を抱いているのだろう。

でも、それを言い出せないのは。

「…A？どした？なんかあったら言えよ？」

この関係が壊れるのが嫌だから、だろう。

壊したくなかった。

心地よくて、安心して、近づきやすい「幼なじみ」と言う肩書きにいつのまにか安堵を覚えていたようだ。

「あ、そういえばさ…」

「うんうん。」

…でも。

でも…

分からないことが、多かった。

小さい頃は、お互いに知ってる事いっぱあったはずなのに。

私…うらたんの何も知らない。

「…って事があって…って、A。Aー」

「…あっ、ごめん。」

「…ぼーっとしすぎ。小さい頃から。」

…あれ？

うらたんは…なんか、私の事知ってるって感じの…

「…うらたんは、私の事…何でも知ってるんだね。」

そんな事を呟く。

急に言われたって困るだけなのに。

ばかだなぁ、なんて思っていると横から「うーん…」と言う唸り声が聞こえてくる。

「…俺は、Aの事…結構知らなかったりする。」

「…え？」

予想外の返答。

うらたんは…私の事、なんでも知ってるイメージがあったから…

「…たとえば、好きな食べ物。」

「え？前に言わなかった？」

「…前に言ってたのは、「サラダうどん」だろ？でも今…」

…あれ？

「言ってなかったっけ。今好きな食べ物…「オムライス」だよ」

「…な？俺…結構知らなかったりする。幼なじみなのにな。」

「…だねぇ…」

幼なじみ。

それは、近くて遠かった。

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