華の牙【朔間零】

理想と現実 (1) ページ33

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普通科に現れた朔間くん。周りから上がる黄色い歓声は、当然のごとく私のそれとは比べ物にならないほど大きく、熱い。

ここが勝負どころだ……私は気合を入れて、表情を引き締めた。



「こんにちは、朔間さん。どうしてこちらに？」

「………うむ。おぬしの体調が気になってのう。どうじゃ、調子は」



世間話をしにわざわざ昼休みに普通科まで来たのか、この人は。はた迷惑な行為はやめて頂きたい。

確かに私は朔間くんの大ファンで、昨日のことを冷静に思い返せばそりゃあもう顔から湯気が出そうなくらい恥ずかしいし(喋れたこと自体は)嬉しいけど。それとこれとは別問題なわけで。



「まだ万全とは言えませんが、お気になされるほどではありません。お心遣い、感謝致します」

「そう、か……」



直訳すれば『心配いらないから帰れ』だ。

勘の良い彼には伝わっているだろうし、本性を知っている以上ここに来て私が喜ぶはずがないのも分かっているはず。

だからこそ、これだけのために来たのではないとわかる。



「……それで、ご要件は何でしょうか」



かなり長い沈黙が続き、私は自分から話を切り出すことにした。

本来ならばこれは契約違反。私はちゃんと彼にネクタイをほどいてもらって、昨日のうちに返したのだから。普通科には来ないで貰いたかった。

…………それ以前の話を持ち出されれば、返す言葉がなくなるけど。


大胆に本題を求めた私に、彼は一瞬だけ目を丸くした。だが、私が話を長引かせたくないと思っているのはすぐに理解出来たらしい。

簡潔に返事は返ってくる。



「プロデュース科への転科の話、引き受けてくれてありがとう。感謝するぞい」

「…………いいえ」



善人として、作り上げてきた女神キャラとして、すぐにお礼を口にしなければいけないのは分かっていた。しかし、口が動かなかったのだから仕方ない。

早く、出来れば一思いに追い詰めてほしい。

……Mなのではなく、本当に早く話を終わらせたかったのだ。前置きはいらない、と目で訴える。



「……嬢ちゃん、放課後は空いておるか？」

「はい」

「ではアイドル科の校舎で待っておる。手続きなど色々あるようで、教師が1度会いたいと言っておってのう」



私は、彼の言い分に渋々頷いた。

当然、周りには渋々でもなければ喜んででもなく、ただ当たり前の仕事を全うするだけに見えたことだろう。



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