処刑の時間、契約の瞬間 (3) ページ25
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零のその真っ赤な瞳には、確かに怒りの感情が存在した。小さな頃から人目を伺ってきたAには、分かる。
………これは、大切な人を傷つけられた時の目。
「大人しく我輩のファンを貫いておればこんなことはせずに済んだのに……あんずの嬢ちゃんを利用しようとしたのは、本当に予想外じゃったよ」
「…………っ、違う!!」
非現実じみた現実に、動かなくなっていた脳がやっと動き出した。
あんずとの関係を真っ向から否定され、相手が自分の愛するアイドルだということを忘れ、声を荒らげるA。
動かない両手を使い、なけなしの力でめいっぱいに零を押し返す。
「私はあんずちゃんを利用しているわけじゃない!!彼女は私の大切な友達よ!!」
確かに、あんずちゃんと仲良くならなければ良かった、なんて酷いことを考えてしまった事もある。
けれど、それは寧ろアイドルとの関わりが増えてしまったからであり、あんずちゃん本人はとても良い子で自分の良い友達だ。
「私は、あんずちゃんのことが、だいすきで……!」
全く的外れなことを言われ、思わずこぼれ落ちる涙。
零は無表情でそれを見つめていた。
「おぬしの言いたいことは分かった。確かに決めつけるのは早計だったかもしれぬのう……」
分かってくれたのか、とほっと息を漏らすA。
しかし、その考えは零の瞳を見てすぐに打ち消される。彼のAへの敵意はまだ、全く晴れていなかったのだ。
「確かにおぬしの言っていることが事実かもしれぬ。しかし、何がそれを証明するのじゃ?」
「……え?」
「おぬしは少なからず、嬢ちゃんに嘘をついている。『アイドルに興味はない』と。『Trickstarの人達は知らない』とな」
息が止まったようだった。
確かにそうだ。Aはあんずに嘘をついていた。アイドルに興味がないと言ったのはもとより、手紙を渡す時も、それ以外にも。
『完璧な女神』のイメージを崩さないため、彼女はあんずに嘘をつき続けていた。
それでいて、今更利用しているわけじゃないと言い張っても、そんなの誰も信じるわけがない。
「…………ッ」
途端に震え出す、彼女の体。
自分が積み重ねてきた嘘が、自分の首を絞めているのを、実感していた。
そんな、中。
「…………あぁ、怖がらせて悪かったのう。ほら、震えるでないぞ」
唐突にかけられた言葉は、何故か温もりに満ちていた。
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とわね(プロフ) - とても惹かれる作品です!更新頑張ってください! (2018年8月18日 16時) (レス) id: 1958dfbf36 (このIDを非表示/違反報告)
リッコ(プロフ) - ラムネを制する者さん» 本当だ……すごい間違いをしてしまいました。ごめんなさい。ご指摘ありがとうございます(^-^) (2018年8月10日 20時) (レス) id: d3767f5969 (このIDを非表示/違反報告)
ラムネを制する者(プロフ) - すごく好みのお話で楽しく読ませてもらっています!吸血鬼が目覚める夜(3)の零さんの台詞の『ならぱ逃げなけれぱよい』なんですが『ならば逃げなければよい』なのでは?間違っていたらすいません! (2018年8月10日 18時) (レス) id: f868d1ea51 (このIDを非表示/違反報告)
リッコ(プロフ) - フラッペさん» お褒めの言葉、ありがとうございます!初作品ですが、“丁寧”を意識してこれからも頑張っていきたいと思います! (2018年8月10日 11時) (レス) id: d3767f5969 (このIDを非表示/違反報告)
フラッペ - こういう細かな文章とても好きです。キャラ一つ一つの感情も伝わってきますし、かく現場も想像できていいですね。おじいちゃんの零先輩も俺の方の零先輩も大好きなので続きが気になります……♪ (2018年8月10日 10時) (レス) id: 0c5a8c4f79 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:リッコ | 作成日時:2018年8月7日 17時