剥がれる“余裕” (4) ページ18
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こんな心境でも、人前では絶対に崩れることを知らない彼女の営業スマイル。日々培ってきたそのスキルが役にたったようだ。
「こんにちは、羽風くん。もしかしてライブを見に来たの?」
「いやあ、そんなつもりじゃなかったんだけど……って、Aちゃんは見に来たの!?」
「え、あ、いや」
驚いてぱっと詰め寄る薫に、何と弁解すれば良いのか戸惑うA。彼女の代わりに説明してくれたのは、話を聞いていたあんずだった。
「A先輩はここを経営しているMIZUKIグループのご令嬢さんですよ、羽風先輩。つまり今回のライブの主催者側の人です」
「へっ?」
「あはは……」
素っ頓狂な声を漏らした薫だったが、それは仕方の無いことだと言えよう。自分がナンパした女性が有名な会社の令嬢だったら、誰もが驚くに決まってる。
当然薫も例外ではなく、目を丸くして感心していた。
「驚いた。じゃあここ、Aちゃんのお父さんが経営してるんだ!」
「え、ええ……」
Aの心境などつゆ知らず、薫は彼女に近づいて話す。あんずが止めに入ろうとしたものの、Aが視線で止めたので、そのまま停止する。
あんずが心配しているのは、用事があると言っていたAの時間だ。
今すぐにでもこの場を後にしたい彼女も、強引に去るのでは悪印象を残してしまう。取り敢えずこの話題を終わらせようと、口を開いた。
「そんなことより、羽風くんはどうしてここに?」
しかし、これが。
______この質問が、間違いだったのだ。
「俺は女の子誘って遊びに来たんだけど、ドタキャンされちゃってね〜。そうしたら、ショッピングモールに……ユニットの先輩?みたいな人がいて」
「……え?」
ドクリと、大きな音を立てた心臓。
「これ、薫くん。女漁りなどしておらんでじっとしておれ……………って、おぬしは」
振り返れば、交わる視線。
彼……朔間零の目は、一瞬にして驚きに染れめられた。
目の前にいるのは確かにアイドル、朔間零だ。
………そこまで理解するのが、彼女の限界だった。
「え、ちょ、A先輩!?」
「Aちゃん!?」
その場にふわりと倒れ込むA、驚いてすぐに近寄るあんずと薫、そして。
「……見つけたぞ」
……ニヤリとした笑みを向ける零がいた。
この日、完璧に作られたAの“余裕”が、無残にも剥がれ落ちたのだった。
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吸血鬼が目覚める夜 (1)→←剥がれる“余裕” (3) ※修正
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とわね(プロフ) - とても惹かれる作品です!更新頑張ってください! (2018年8月18日 16時) (レス) id: 1958dfbf36 (このIDを非表示/違反報告)
リッコ(プロフ) - ラムネを制する者さん» 本当だ……すごい間違いをしてしまいました。ごめんなさい。ご指摘ありがとうございます(^-^) (2018年8月10日 20時) (レス) id: d3767f5969 (このIDを非表示/違反報告)
ラムネを制する者(プロフ) - すごく好みのお話で楽しく読ませてもらっています!吸血鬼が目覚める夜(3)の零さんの台詞の『ならぱ逃げなけれぱよい』なんですが『ならば逃げなければよい』なのでは?間違っていたらすいません! (2018年8月10日 18時) (レス) id: f868d1ea51 (このIDを非表示/違反報告)
リッコ(プロフ) - フラッペさん» お褒めの言葉、ありがとうございます!初作品ですが、“丁寧”を意識してこれからも頑張っていきたいと思います! (2018年8月10日 11時) (レス) id: d3767f5969 (このIDを非表示/違反報告)
フラッペ - こういう細かな文章とても好きです。キャラ一つ一つの感情も伝わってきますし、かく現場も想像できていいですね。おじいちゃんの零先輩も俺の方の零先輩も大好きなので続きが気になります……♪ (2018年8月10日 10時) (レス) id: 0c5a8c4f79 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:リッコ | 作成日時:2018年8月7日 17時