剥がれる“余裕” (3) ※修正 ページ17
.
「ええと……言ってなかったと思うけど、私これから用事があって……」
「え、そうなんですか!?」
驚きに染まった声を上げたのは、先程までぼうっとしていたあんずだ。彼女はAがそのままライブを見ていくのだと思い込んでいたらしく、がっかりしているのが目に見えていた。
Aとしても心の痛むところだが、Trickstarとの関わりに加え、薫と出かける約束をしてしまった今、これ以上の接触は控えたいところだった。
「スタッフは何人か用意してあるから、困ったことがあったらその人たちに言ってね?」
昨日から平静を保ち続けていた表情筋は、そろそろ限界を迎えていた。一件平気そうな顔に余裕そうな声色をしていても、アイドルと話す度内心ドキドキなのだ。
忘れないで頂きたい。これでも彼女は性格を作っているだけなのだ。本性は全く別のところにある。
急にオロオロし始めたAに、5人は心配し始める。誰かが「そんなに急いでいるのか」と捉えたのをきっかけに、解放してもらえたA。
「先輩、色々ご迷惑をお掛けしました!ありがとうございます!」
「が、がんばってね……?」
振り返った瞬間、昨日1日で溜まった疲れが……長時間寝続けても取れなかった疲れがどっと出てきた。
この短い期間のうちに。正確に言えば、あんずと仲良くなってから、慣れないことが多すぎるとA考える。
今日は帰って、早いけどもう寝よう。そんなことを即決してしまうまでには、Aの心労は溜まっていた。
(ただ毎日手紙を書いて、眺めているだけでいいのに……関わりを持ってしまう上に、会うのは関係の無いアイドルだし)
はあ、とため息をついた______その時。
「先輩!忘れ物してますよ!」
「あれ、Aちゃん!?」
彼女を悩ませるふたつの声が、進行方向とその反対側から、同時に聞こえたのた。
咄嗟に、一瞬だけ崩れてしまった表情を維持で持ち直し、Aはあんずのほうを向いた。
「ありがとう、わざわざ届けに来てくれて」
「って、あれ!?あんずちゃんもいるじゃん!」
「は、羽風先輩……!」
面倒な状況になった。そう素直に感じるAであったが、この男が男性ユニットをわざわざ見に来たとは考えにくい。
恐らく女の子と遊ぶのか、その帰りだろう。
瞬間的にそこまで予測し、彼女は今日も完璧な営業スマイルを“作ろうとした”。
.
168人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「あんスタ」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
とわね(プロフ) - とても惹かれる作品です!更新頑張ってください! (2018年8月18日 16時) (レス) id: 1958dfbf36 (このIDを非表示/違反報告)
リッコ(プロフ) - ラムネを制する者さん» 本当だ……すごい間違いをしてしまいました。ごめんなさい。ご指摘ありがとうございます(^-^) (2018年8月10日 20時) (レス) id: d3767f5969 (このIDを非表示/違反報告)
ラムネを制する者(プロフ) - すごく好みのお話で楽しく読ませてもらっています!吸血鬼が目覚める夜(3)の零さんの台詞の『ならぱ逃げなけれぱよい』なんですが『ならば逃げなければよい』なのでは?間違っていたらすいません! (2018年8月10日 18時) (レス) id: f868d1ea51 (このIDを非表示/違反報告)
リッコ(プロフ) - フラッペさん» お褒めの言葉、ありがとうございます!初作品ですが、“丁寧”を意識してこれからも頑張っていきたいと思います! (2018年8月10日 11時) (レス) id: d3767f5969 (このIDを非表示/違反報告)
フラッペ - こういう細かな文章とても好きです。キャラ一つ一つの感情も伝わってきますし、かく現場も想像できていいですね。おじいちゃんの零先輩も俺の方の零先輩も大好きなので続きが気になります……♪ (2018年8月10日 10時) (レス) id: 0c5a8c4f79 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:リッコ | 作成日時:2018年8月7日 17時