仕事_127 ページ31
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一期は瞠目し、ぎっと化け物を睨んだ。瞳が怒気をおびる。
一期「この…っ！」
瞬きひとつの間にどろりとした触手を全て斬り落とした一期は、化け物に太刀を突き刺した。
その傷口に、一瞬の
のばした手が、どろどろとうごめく粘液に漂う、冷たいものに触れた。が。
一「ぅあ…！」
Aの腕を掴むよりも先に、化け物が怒号をあげて一期を勢いよく撥ね飛ばした。
遠く離れた木々に叩きつけられた一期は、そのまま地面に転がる。太刀も手を離れた。
肘をついて起き上がろうとし、激しく咳き込む。
化け物の体液は、触れているだけで霊力を奪っていくおぞましい瘴気の塊だった。それに浸った左腕は、しびれて感覚を失っている。
あんな化け物の中に呑まれ続けたら、Aは。
一期「A、殿…！！」
＿ ＿ ＿ ＿ ＿ ＿ ＿ ＿ ＿ ＿
漆黒のどろりとした闇の中で、Aはかっと目を見開いた。
息ができない。鼓動の音だけが耳の奥で激しく木霊する。
苦しい。……でも、今しかない。
＿＿「魂を戻すのはね、道案内と比べ物にならないくらい霊力を使うの。万が一するときは、霊力が満タンな時に、安全なところで
安全とは程遠いな。
Aは全身にまといつく瘴気の塊の中、千年以上前の上司の言葉を思い出す。
《清陽は天なり、濁陰は地なり。伏して願わくば、守護諸神、加護哀愍したまえ＿＿》
開いた口中に、どろりとしたものが入り込んでくる。喉の奥に侵入してきて、気管をふさぐ。
全身から気力も霊力も何もかもが吸い取られて、ともすれば意識すらも持っていかれそうになる。
でも。
Aはぐっと唇を噛んだ。
皆が待っている。
無事に帰らなかったら、きっと悲しむ。
同僚だって、多分心配ぐらいはするだろう。
ひのとも、救えずに終わってしまう。
それに、一期が。
一期が、傷ついた目をする。
自分の知らない何かが一期を追い詰めて、傷つけて、ぼろぼろに打ちのめしているのならば、それを消すのはきっと自分の役目だ。
一期が痛みを抱えた目をするのを見るのがいやだから、私は帰らなければいけない。
帰らなければ、何も言ってやれないのだから。
だから。
こんなところで、こんな得体のしれない化け物なんかに、やられるわけにはいかない。
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作者名：葛の葉 | 作成日時：2018年12月16日 16時
