【銀魂】死神のラプソディ【BLEACH】

Paradise in darkness ページ36

　
　
　夢は、なんでも叶えてくれる。




　今日の失敗を無かったことに。
　明日のテストを無いことに。
　ほしいものを今すぐこの手に。
　食べたいものを好きなだけ。
　どこにだって行くこともできる。
　なんにだってなれる。
　鳥になって空を飛ぶことも。
　鯨になって海を泳ぐことも。
　荒れはてた街でゾンビと戦うことも。
　魔法使いになって奇跡を起こすことも。
　勇者になって世界を救うことも。


　夢の中でなら自分は無敵で、恐いものなんてなくて、
　この足は、どこにだって向かっていけるのに。
　誰にだってなれるし、なんだって、できるのに。



　あの時、あの瞬間だけはどうしたって変えられない。









　その日は雨。その前の日も雨。そのまた前の日も雨。川の水は結構増水していた。


　透と彼･･･いや、透と“黒崎”家の家族。そしてなにより最愛の“母”に訪れた最大の不幸。
　異形の“化け物”を目の前にして、毅然と対峙した母。
　乱れる呼吸も、足の震えも、背に落ちる冷や汗の感触一つだって寸分違わず思い出す。



　もう何度も、繰り返し同じ夢を見た。
　あの日、あの時、自分たち“家族”に突如起こった悲劇を。
　透が【死神】になった理由を。



　この夢はいつも明晰夢だ。

　透のあの時の無力さを痛々しいまでに再現する。




　まるで忘却を赦さないように。
　夢に見るたび、心に楔を打ち込んでいく。
　これが自分の罪なのだと。
　夢見は、罰なのだと。



　あぁ、今日もあの忌まわしい瞬間が訪れる。

　母の意志の強い瞳が化け物をしかと見据え、立ち向かう。



　待って！！

　透は声をあげずに絶叫する。

　一歩でも多く足が動いたら、もっと大きく声が出せたら、あの時の絶望を、今までの後悔を、無かったことにできるのに。

　夢ではなんでも叶うはずなのに、透の喉から音が出ることはなく、足は重りが付いたかのように重くて思うように早く動かない。


　それでも、諦める訳にはいかない。



　透は叫ぶ。


　彼女の声をかき消すために。
　音の出ない喉を引き絞る。





　化け物が母に近づいてくる。

　透の声は、手は、届かない。

　あぁ、また今日も、絶望の繰り返し。


　喉が痛い
　声が出ない
　目の奥が熱い
　頭を締め付けるような痛みに支配される




　焼き付けるように、目を見開いた。

〃→←〃；オマケストーリー

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