グリムラルカ インゴーストシップ

9.取捨選択の人形 ページ28

私には、なにがなんだか分からなかった


どうして手錠がついてるの？
これは、何の為の手錠なの？


なんで、なんでソレを…



「俺がお前につけたのかって？」



教えてほしいか、と低い声で囁かれ、ゾクリとする。志麻さんは三日月を描いたような冷やかな笑みを浮かべて、手錠に繋がれた鎖を、力任せに引っ張った


手首が引きちぎられたかと錯覚する程の痛みに顔を歪める隙もなく、顎を掴まれ、上を向かせられる



鼻と鼻がくっつきそうなくらいに近づけられた志麻さんの顔に息を呑んだ。その瞳は心底愉しそうに恐怖に萎縮した私を見据えた。



「……第2ゲームの時から思っとったけど、中々良い反応するねェ。そろそろ俺の理性死にそうなんやけど」



恐ろしさに体が震えて何も言えなかった


(こんな志麻さん、知らない)


思わず後ずさろうとした時、バサッという空を切る音がして、大きな影が二人にかかる



「おいまーしぃ、何一人で喰おうとしてんだよ」



そう発したのは志麻さんでも、私でもない

謎の人物の登場に小さくため息をつくと、彼は手を離し、私の奥を見て口を尖らせた



「別に味見しようとしただけ」

「いや、今の完全に喰う気満々だっただろ」



振り向いた私の目に映ったのは、ヒトの形をした、ヒトではない生き物

目鼻がくっきりとして眉目秀麗なその顔に、黒いスーツとは対称的な白く透明感のある肌。左目の下には雫の形をしたアザがある


背からは体の倍程の大きな白い翼が伸びていた



天使、なのか。しかし、上へと見上げるも頭上に天使の輪らしきものはなく、代わりに角のような物が茶髪から覗いていた



ヒトではなくて、天使でもない
天使と悪魔の中間みたいな生き物

これを言葉で表すとしたら

＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿堕天使



「あ、うらさん達見っけ！」

「その子ですか？志麻くんが目ェつけたのは」



声が聞こえたかと思えば、翼の後ろから二つの影が現れた。出てきたのはフードを被った青年と中華風の服を身に纏った青年


彼等もヒトの形をしているがヒトではなかった。本能が、ヒトではないと叫んでいた


何、何なの？やだ、こんなの知らない



その時、何かを話していた堕天使が私の視線に気が付き、こちらに寄ってきた。逃げようにも体が動かず、ただ見つめる事しか出来ない


やがて、堕天使は私の目の前に来ると口を開いた



「始めまして、人間ちゃん。俺等は"魔物"だ」



私に向けられた微笑みは恨めしい程に醜美しかった

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