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「…ごめんね、変なこと聞いて」
困っている様に見えたのか、少女は話を終わらせようとする。
冬弥は反射的に言葉を紡いだ。
「っ、夏みたいだった」
咄嗟に出た言葉だった。
「夏?」
「ああ。なんというか、爽やかで、涼しげで…」
どれだけ考えてもまとまらない。
いつもなら、もっと上手く言えるのに。
「炭酸の様な、感じで…」
「(だめだ、これじゃあ抽象的すぎる…)」
「…ふふっ」
冬弥が頭を抱えていると、ふいに少女は笑った。
「ありがとう。そんなに真剣に聞いてくれてたんだ」
そう言って少女はピアノを撫でた。
まるで、愛しいものを撫でる様に。
「(俺が言った感想は、感想らしい感想じゃなかったはずだ)」
なのに、少女は冬弥に真剣に聞いていたと言った。
冬弥はそれが嬉しかった。
「…炭酸、か。いいね、それ」
そう呟いた少女はもう一度ピアノの前に座り、鍵盤に指を滑らし___
「っ!」
少女が奏でだした旋律に、冬弥は心を奪われた。
先程よりも力強く、そして美しい。
冬弥の視界が泡立ち始める。
強く弾ける泡が、冬弥と少女の周りを囲んだ。
「(…やはり、炭酸の様だ)」
この曲はなんという曲なのだろう。まだまだ曲に対する知識が浅い冬弥はそんなことを考える。
自分がもし、この曲を歌うとしたら…。
「…♪ーーー!♪〜〜」
彼女が驚いた様にこちらを見ているのが目に入った。
しかし少女は目を輝かせてさらにアップテンポでピアノを弾く。
「(何も考えないで歌うのは、こんなにも楽しいのか)」
少女と冬弥の視線が交わる。
少女はふわりと優しい笑顔を冬弥に向けた。
冬弥はそれに応える様に声を張る。
そして冬弥はちらりと少女を見る。
「(…ああ、やはり)」
綺麗だ。冬弥は、心からそう思った。
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作者名:レノ | 作成日時:2022年5月7日 23時