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長い様で短いセッションが終わった。


「っは〜、楽しかった!」


パタパタと手で自らを扇ぐ少女の首筋にはうっすらと汗が滲んでいる。


「にしても青柳くん、凄いね!いきなり歌い出すんだもん、びっくりしたよ!」


少女は冬弥に顔をずいっと近づけ、目を輝かせる。


慣れない至近距離に冬弥はタジタジになりながらも、なんとか話し始める。


「自分なら、どうやって歌うか考えて歌っただけだ。それに、そうさせたのは君のピアノだ」


「へ〜、私のピアノが、かぁ…」


少女は嬉しそうに冬弥から視線を逸らして笑う。


「ところで、あの曲はなんて名前の曲なんだ?よければ教えてほしい」


「ん?あれ私の自作だよ。だから名前まだ決めてないんだよね〜」


少女はあっけからんと言い放つ。


「…そうだったのか」


「青柳くんがさっき、『炭酸みたい』って言ってくれたから、それっぽく演奏しただけだよ」


「(それだけで、あんな演奏ができるのか)」


紛れもない少女の才能に、冬弥はかなり驚いていた。


しかし、人よりも感情が表情に出にくい冬弥がその驚きを表情に出すことはなかった。


「…よし、満足したし、今日は帰ろ〜っと」


一度大きく伸びをして、少女は音楽室の扉へ向かう。


「あ、どうせなら暇な時また来てよ。吹部がない日なら大体ここいるからさ。また歌おうっ?」


ぱっと年相応の笑顔を見せて少女は立ち去ろうとする。


「あっ…、待ってくれ!」


冬弥は反射的に腕を掴んで少女を引き止める。


「ん?どうかしたの?」


「名前、教えてくれないか」


まだ少女の名前を聞いていなかったことに気づき、少女の名前を尋ねた。


「あれ、言ってなかったっけ?」


少女が冬弥に身体を向けると、空いていた窓から入った風が、少女の髪を揺らす。


「A。江夏Aだよ。これからよろしくね?青柳くん」


「(A。江夏、A)」


冬弥は少女の名前を、宝物の名前を呼ぶ様に心の中で何度も呟く。


「…こちらこそ、よろしくな。江夏」


そして冬弥は、優しく微笑んだ。

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作者名:レノ | 作成日時:2022年5月7日 23時

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