【#コンパス】真のあなたと型紙のあなた【逆ハー気味】 (ページ5)

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あれからずっと女は黙って人形を抱きながら顔を伏せている

それでも耳まで赤くなってんのは丸見え。

『…おい、興奮すんなって』

｢ひっ…！？ち、ちがう、！｣

背後から耳元で囁いてやると、女は何とも初々しい反応をしてくれた。

これが父親大好きっ子とか勿体ねぇな…

つーかまだ募集中なのに、大好きーとか全てを捧げるーとか書いてあんのはどーゆー意味だァ？

特に意味は無いが、再び女が抱えている人形を無理矢理奪う。

その瞬間、真っ赤な顔が露になった女と目が合う。

『…なんだよ、俺の顔がそんなに可笑しいか？』

そのままじっと見つめてくるもんだから

負けじと綺麗な瞳を見つめ返す。

すると女は急に我に返ったかのように慌てて両手で顔を隠した。

｢み、みてないから…｣

何の為にここまで説得力のない嘘を吐くか…

ましてや"ほんとだよ？みてないの。"とか言いつつ

さりげなく俺の手元にあった人形を取り返していた。

『あー、そりゃ残念だな

てっきり俺に惚れたんじゃねぇのかと思っちまったぜ』

俺が冗談混じりにそう言えば、

｢そ、それだけは絶対にないからね！｣と全面否定。

そこまで言われると流石の俺でも悲しくなってくるんだわ。

｢あるかもしれないけど…｣って小声で後付けしたのが聞こえたような気もしたけどな。

『ま、俺も餓鬼に手出す程の馬鹿じゃねぇし

精々頑張れよ』

名前も顔も知らねえ相手に長居されるのもあまりいい気はしないだろうし、

そろそろ自室にでも戻ろうかと女に背を向ける。

その直後、

｢…あ、あの

名前、教えてくれないの？｣

そう言って女が俺の手首をそっと掴んでくる。

対して俺は、現状に驚きを隠しきれていない声色で答える。

『…13。

あー…悪ぃな、勝手に部屋入ったりして』

そう言い放つと同時に、掴まれた手を振りほどく。

我ながら失礼な奴だな。なんて事を考えている反面、

反省の色など全く無かった。

ましてや｢ねえ、さーてぃーん？｣と何度も俺を呼ぶその声に、耳を傾けることすらなかった。

…否、出来なかった。

.

.

『ッ…期待させてんじゃねぇよ、餓鬼の癖に_____』

彼は誰にも聞こえぬ声でそう呟き、

鴉のように去っていった

窓の外は星が煌めく群青色だった。