誘惑欲張りJEWELRY『3』

常識的範囲の正論 ページ47

「いやいやいやいや、これが現実? 冗談はよし子さんですよ音済さん。だって有り得ないじゃないですか、人が宙に浮くだなんて。そう言う機械があるなら話は別ですけど、香苗ちゃんは何にも持ってないんですよ? 身1つで人が宙に浮ける訳が無いじゃないですか、隼さんじゃあるまいし。」

　真顔なのは変わらないが、何時もの彼女からは考えられない勢いで取り乱す柏木。早口で人間の常識的範囲の正論を捲し立て、今目の前で起こっている現象を全力で否定する。

　目の前で起きている現象とは、真っ白な肌に黒髪の小さな女の子が宙に浮きながら此方を睨み付けている普通の人間ならば有り得ない現象否、光景。

なるほど、「幽霊」を彼女は見た事が無いのかと1人納得する。今まで、見ていたとしても、それは普通の生きている人間と間違えていただけ。

　柏木の年の離れた幼馴染み、風間さんから聞いた話し、彼女本人は無自覚ながら、念の強い霊を肉眼で見たり、その辺に彷徨いている霊達の声を聞く程度には霊感があるらしい。

風間さんも、彼女を1度目にしたお寺のご住職から聞かされた話しだと言っていた為、それは事実なのだろう。

「何のつもりだ。」

　混乱状態に陥った柏木を、落ち着かせる様に抱き締めたまま香苗ちゃんと呼ばれた少女を睨み付ける。

　此処までの彼女の行動は全て計算されたものだ。詰まり、計画的に柏木を崖から転落させ、殺そうとした。そう言う事になる。

　見た感じ、柏木に深い恨みを持っている様には見えず、何故彼女を殺そうとしたのか、全くと言って良い程少女の意図が分からない。

「…………」

「……」

「モモタスー!」

「Aー!」

　俺の問い掛けに、俯き口を噤んでしまった少女。俺達の間に流れた暫くの沈黙を破る様に、ミカと風斗の声が辺りに響き渡った。

　見ると、後ろからミカに続いて合宿の参加メンバーが全員此処まで来ていた。

　きっと、先に戻ったミカや涙が知らせてくれたのだろう。

「チッ」

　人が続々と集まってきた事で、先刻までずっと黙りを決め込んでいた少女、香苗が小さく舌打ちをし、更に顔を歪ませた。

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