誘惑欲張りJEWELRY『3』

誤魔化し上手 ページ37

「痛いなァ……」

「ちょっと、アイドルの頭叩くとかどういう心算?!」

　いや、黒崎先輩もアイドルだけどな。と言うツッコミを心の中で終え、黒崎先輩の拳骨を受けた頭を、風斗くんと2人して擦る。

「お前ら、ギャーギャーうるせェんだよ。」

「すいません。」

　怒る黒崎先輩を前に、チラッと余所見。釈村さんの隣で苦笑いを浮かべている増長さんを目に写す。

　何時も通りに見えるも、偶に頭を片手で押さえたり、ふとした瞬間に笑顔が消える。矢張り、少しだけであるが顔色も悪い。

　周りには上手く誤魔化せているが、リーダー愛に溢れたMooNsの面々には、薄々体調が悪い事に気付かれているみたいだ。

　隣に居る釈村さんも、ちょっと離れた場所に座っている音済さん。お茶を飲んで休憩している野目さんに王茶利さんも、チラッチラッと増長さんの様子を伺っている。

　このまま無理をし続けて、体調を悪化させて貰ってはいけない。取り敢えず、この場から自然な感じで自室に戻り、ゆっくり休んで貰おう。

　まだこの後も撮影があるのだ。ナギくんにも言ったが、私は為るべく万全な状態で撮影に望んで欲しいのだ。

「皆さん大変お騒がせしました。この通り、風斗くんとは親戚同士の腐れ縁と言うだけですので御安心を。」

　風斗くんとの口喧嘩で騒いでしまった事を先ずは侘びる。その後、皆さんには自室で休んで貰う事をお勧めし、その場は解散した。

「さてと、私は夕飯の買い出しに行こうかな。」

　一昨日はシチュー、昨日は豚のしょうが焼きとガッツリ系メニューであったから、今日は胃に優しい物にしようと大体のメニューを頭で完成させてから買い出しへ。

「頭痛薬と風邪薬に、スポーツドリンクですか?」

　1人ではキツい為、澄空さんと春歌先輩に付き添って貰った。

　増長さん用に頭痛薬を、いざと言う時に風邪薬とスポーツドリンクを買い物カゴに入れた時である。

　カゴの中にある物を見て、春歌先輩に首を傾げられた。

「ああ、いざと言う時の薬です。何時もと違う生活をしている訳ですから、体調を崩される方もいらっしゃるかと思って。」

　増長さんの事を知らない春歌先輩。作曲活動に専念している先輩に余計な心配をかける訳にはいかない。その為、何となくそれっぽい事を言って誤魔化した。

頼み事は苦手である。→←親しき仲にも礼儀あり

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