誘惑欲張りJEWELRY『3』

身嗜み チェック! ページ34

金沢の名所巡りの撮影はお昼で終了。残すは夜の胆試しだけとなり、それまでは各自寮にて自由に過ごす事となった。

　最初に寮へ戻ってきたのは、私達。その次に風斗くん達のチーム。

ST☆RISHとKiLLER KiNGのチームに同行していた風斗くん。

何時もの彼を見ている限り、他の人と上手く仕事が出来ていたのか心配で、そわそわしているとそれに気付いた春歌先輩から、「とても礼儀正しかったです!」とニコニコ、満面の笑みで伝えられホッと胸を撫で下ろした。

　短気で喧嘩早い私とは違って、彼は猫を被るのが非常に上手い、世渡り上手である。

　何時も私には小生意気で口達者な態度を取ってばかり居る風斗くんだが、他人への礼儀はしっかりしているのだ。そこら辺に関しては流石と言えよう。

「あれ、風斗くん髪の毛ちょっと乱れてるよ?」

　春歌先輩の話を聞き、帰ってきた風斗くんの方へと視線を移す。そして直ぐ様気になったのは、今朝までは整えられていた筈の色素の薄いフワフワとした非常に弄り甲斐のある髪。

　風に煽られた所為か、少し乱れてしまっていたのだ。

　今はカメラが回っていなくとも人前。人様の手前、アイドルとして人として、身嗜みは常に整えていて欲しい。

そんな私の身勝手な我儘に、しっかりちゃっかり可愛い弟分である風斗くんを付き合わせる。これは彼の親戚のお姉さんの特権だと思う。

　この特権を今使わずして、何時使うと言うのだ。

「整えてあげるから、此処に座って?」

それは今しか無い。

　風斗くんが着ていたパーカーの襟首を掴み、有無を決して言わさない雰囲気を放つ。

「……分かった。」

　長い付き合いである風斗くんは、私の身嗜みを整えたい、誰かを着飾りたいと言うスイッチが入ると止められない事をよく知っている為、渋々と言った様子で素直に私の言葉に従った。

何時もは喧嘩ばかりだが、こう言う時だけ聞き分けが良いのは小さい頃に少し痛い目を見ているから。

　あの時はごめんね、風斗くん。

　過去の出来事を振り返り、幼かった自分の行動を反省する。

　心の中で謝罪を述べつつ、私は自室からクシとヘアスプレーを持ってきてソファの下に座る風斗くんの髪を弄り出す。

「A、俺にも頼んで良い?」

そんな私と風斗くんの光景を見て、少し遅めに帰ってきた愛染さんが自分の前髪を気にしながら頼んで来たものの―――

「これは僕の特権だから駄目。」

私が返事をするより前に、風斗くんが何故かそれを拒んできた。

似なくても良い所がお互い似てしまったものである。→←花より団子

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