誘惑欲張りJEWELRY 『1』 (ページ40)

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焦りと苛立ちを胸に秘めるページ40

「ねえアイアイ、彼女の曲、どう思う?」

　テラスにて、寿と美風は何時になく真剣な眼差しで話をしていた。

「…………これと言って面白味がないね。」

　美風は容赦なく、バッサリと言い捨てた。
寿はそんな彼に困った様な表情を浮かばせる。

「ハルカなら彼女と比べ物にならない位良い曲が作れる。」

　美風はふと、春歌の作った曲と彼女が作った曲を脳内に浮かべる。そしてやはり春歌の方が良いなと自己完結。

「もー、そうやってハルちゃんと比べるから彼女が拗ねちゃうんだよ!」

　自分だって本当は比べている癖に、そんな言葉を美風は飲み込んだ。

「自分に才能が無いからって、僕達に当たらないで欲しいね。」

　テラスの柵に身を預け、両腕を組みながら苛立ちを露にする美風。彼の言葉に流石の寿も眉を八の字に潜めた。

'音楽の才能の事に関しては、今現在、アイドルとして伸び悩んでいる先輩方に言われたくありません！'

　此方を睨み付け、バッサリ言い切った彼女の言葉が鋭い針の様にちくちくと寿の胸に刺さっている。其れが何事にも変えられない事実であったから。

けれど、あの時は違ったと寿は確信していた。

　後輩の七海春歌と言う少女が作った曲、あれは僕達一人一人の歌声の特徴を全面的に引き出せる素晴らしい歌であったのだと。

　彼女が作った曲ならばもっと遥か上へ行ける。今よりもずっと上を目指すことが出来る。

そんな強い希望をメンバー達が抱き始めた頃、社長であるシャイニング早乙女から急に作曲家を付けられた。

　やって来たのはまだまだひよっ子で、実力も定かではない作曲家のたまご。

　黒崎や美風、そしてカミュ、皆が彼女、柏木に良い感情を抱く筈が無かった。

　あのシャイニングが選んだ子だ、もしかしたらと僅かな希望を抱いてみるもそれは直ぐに打ち砕かれ、更に彼女への反感が高まってしまったのだ。

　彼女に非は無いと言えど、苛立ちや焦燥を胸のうちに秘めておくのはもう、限界だったのである。