突然現れる ページ29
「格好いい……」
街中のビルについている屋外ビジョンから、Procellarumのライブシーンが流れていた。
曲調が自然と耳に馴染み、力強い歌声が私の心と頭を震動させる。全身にブワッと鳥肌が立った。
嗚呼、思い出した。私はこんな歌を作りたくて作曲家になったんだ。
中学3年生になる少し前。友達に嫌々連れられて行った彼等のライブステージを見て、私は目を奪われた。
キレのあるダンスに爽やかな笑顔、そして洗練された歌声。1回聞いただけでも耳に残る癖のある曲調。
正に彼等は、表舞台に立つべくして生まれてきた人達。
私は其れに酷く憧れ、強く惹かれたのである。そして同時に、彼等に此の曲を作った作曲家にも興味を抱いた。
私もこんな風に、誰かの心を大きく揺さぶり動かせるような曲を作ってみたい!
私はそう思ったのだ。だから私は早乙女学園に入学して一から音楽を学び、作曲家になった。
「私、やっぱり音楽が好き。」
心の中で呟いた筈の言葉が、自然と口から溢れてきた。
「おや、僕達の歌を聞いて、そんな事を言ってくれる子が居るだなんて嬉しいなぁ。」
「え?」
私のすぐ後ろで声が聞こえた。其れは低く、私の脳内だけに轟く美しい声で――――
「霜月、隼……さん?」
後ろを振り向く前にその声の持ち主が予想できてしまった。否、まさか今人気のアイドルがこんな街中で堂々と自分達のファンと思われるただの小娘に声をかけるわけが…………あった。
「な、な、なん、何で隼さんが此処に。」
「ん? 君の呼ぶ声が聞こえてね。飛んできたんだよ。」
ニコニコと腹の底が読めぬ笑顔を浮かべ、嘘か本当かも分からない答えを述べる。
私はずっと憧れていた人が突然目の前に現れて、混乱状態だ。何をどうツッコンで良いのやら。
「ちょっと僕についてきてくれないかな、柊木、否、柏木 Aちゃん?」
色々とツッコミたいことはあるが、取り敢えず何故私の名前を知っているのか聞こうとする前に、グイッと力強く腕を引っ張られ、黒の高級車に乗せられた。
どういう情況ですか、これ?
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作者名:櫻餅 | 作成日時:2017年5月29日 10時