【ツキウタ。】 月に恋せよ暦ガール

月恋 第48話　「脳内ツッコミ」 ページ49

「如月さん、ご迷惑お掛けしました」

　手当てを終え、その場に居た如月さんに深々と頭を下げる。

「俺は良いけど、Aは大丈夫? 右手が使えないって、結構不便じゃない?」

「大丈夫です」

　薬を塗られ、包帯が巻かれた私の右手を心配そうに見詰める如月さんに笑いかけた。

怪我をしたのは自業自得、如月さんに余計な心配を掛けてはいけない。

「睦月さんもご迷惑お掛けしました」

そして、夕飯を作り直してくれている睦月さんに向き直り頭を下げる。

「気にするな。ところで、1つ聞いても良いか?」

　人を威圧する様な迫力の有る睦月さんに見詰められ、一体全体何を聞かれるのか恐ろしくなって身震いをせずに居られない。

「は、はい」

私は思わず身を竦め、小さな声で返事をした。

「何か、深く考え込む様なことがあったのか?」

「え、えっと、それは………」

　「父さんとアイドルデビューのことをよく話し合うべきかどうかを考えていました」なんて今の私では口が裂けても答えられない。

　睦月さんの質問、先日の文月さんにされた問い掛けの様に言葉が出てこなくなってしまった。

　どんなアイドルになりたいか、明確な目標も見つけられていない。絶対反対するであろう父さんを説得もせず、無理矢理東京に来てしまっている。

　アイドルになる以前に問題だらけの私の悩みを、どう彼等に伝えろと言うのだ。

「深く考え込んでいたと言いますか、GW明けの小テストの事で………私、文系科目が苦手で、さっき覚えたばかりの古典の単語を何回か頭の中で繰り返していたら、その、料理から古典の方へ意識が移っちゃったみたいです。本当にすみませんでした」

　しどろもどろになりながら、咄嗟についた嘘は何とも酷いもので、両手で頭を抱えたくなった。

　GW明けに小テストなんて無いし! 理系科目が得意なだけであって、文系科目苦手でもないし! て言うか、挙動不審になり過ぎでしょう私! 嘘下手かって、超絶下手だったわ! そもそも、あの睦月さんに向かって見え見えの嘘をつくとか馬鹿なの私!? 馬鹿だった!!

脳内でツッコミの雨嵐。否、暴風雨プラス最後の現実逃避を起こし、見え透いた嘘に冷や汗をダラダラかきはじめる。

こんな下手くそな嘘、あの黒き王様と名高い睦月さんに通用するわけ無いではないか。

「そうか………まあ、今度からは気を付けるようにな」

けれど、少し訝しげな顔をされたものの、意外とあっさり納得されホッと安堵の息をついた。

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