◆貴方に縛り付く---nk ページ22
《えすけぷパロ》
今日も、いつものように薬の調合をした。
かなりの時間のめり込んでいたようで、背を伸ばせばポキポキと軽い音が響く。
「ふぁぁ〜……あ？ありゃー雨降りそー。」
「あぁ、確かそろそろ降るらしいね。じゃーなかむ洗濯物取り込んできてくんね？」
「人に頼む態度かぁそれが？？……ま、いいや。いってきまーす。」
そろそろ彼女にも会いに行きたいし。
そう思い、俺は図々しい態度のきりやんを背に屋上へと上がっていった。
屋上にたどり着けば、見慣れた景色が広がっていた。
あたり一面の森、下を見下ろせばいつもの中庭が見える。
ひとつ、特別なオーラを纏っているものがあるとすれば、
少し欠けた鉄格子くらいだろう。
俺は鉄格子の方へと歩いて行った。
「………いるんでしょ。A」
『………』
「あははっ。相変わらず無口だなぁ。」
『……なんか用ですか。せんせー？？』
するりと姿を見せた彼女、Aは、あの時となんら変わらない。
あぁ、あの時は透けてないか。
「雨、降るらしいね。」
『それが何。雨風に打たれ続ける私に同情でもしたいの？』
「そんなことないけどさぁ……」
彼女はふわふわと鉄格子の上を歩いていく。
皮肉混じりの返事でさえも愛おしく感じる程、彼女のことを愛していたんだと実感してくる。
『…あの日も雨か。』
「うん。君がここに来た日も、君がここから飛び降りた日も、雨だったよ。」
『へぇ、覚えてるんだ。』
「…好きだったんだから、当たり前でしょ。」
『私をここまで追い詰めたのはアンタなのにね。』
「うーん。言い方が悪いなぁ…俺は君を独り占めしたいだけだったんだけど。」
実際、君が地縛霊になって俺だけにしか見えないなんて
知った時もだけど、今もなお興奮し続けている。
彼女と再び言葉を交わした時のことを思い出して頬が赤く染め上がる。
横からキモ…とかなんとか聞こえるがまぁいい。
ぽつり、と、暑くなった頬に冷たい雫が降り注いだ。
『…ねぇせんせー。』
「ん？なに？」
『私、せんせーの事許すよ。一個の条件で。』
「へぇ、因みに何？」
段々と雨足が強くなる中、俺は洗濯物が濡れるにも関わらず彼女に問いかけた。
すると彼女は長い前髪で顔を隠しながらニヤリと微笑んだ。
『うーん覚えてるかなぁ。私さ、海見たことないんだよね。』
．
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作者名：長月チョコ@09 | 作成日時：2023年10月12日 18時
