イロコイ・ライン 5th【ars K.N】 (ページ37)

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197.箍。ページ37

長いと言っても、唇が触れてた時間は多分5秒くらい。

それでも私は、膝の力がガクンと抜けて

崩れるようにその場にペタンと、座り込んでしまった。

先生は「おっと...」って小さく笑うと、私の前にしゃがむ。

「大丈夫？」
「.....大丈夫...なのかな...」
「ん？」
「何か自分でも、よく分かんなくて...」

この気持ちは、どう表現したら良いんだろう。

大丈夫か？って言われると、大丈夫じゃないよ！って程に心臓はバクバクしてるし。
だけど、今までに感じた事の無い程の幸福感だし。

そして何より、ほんの数秒前の先生よりも今目の前にしゃがんでる先生が更に好きで...

「分かんなくても良いんだよ、試験じゃないんだから」
「...先生...」

先生の腕が、私の頭をキュッと抱え込んだ。

チッチッチッ...と、腕時計の秒針が進む音が耳元に聴こえてくる。
先生の細い腕に着いた、シルバーの男っぽい腕時計。

その秒針の音の度に、「好き」の気持ちも増えて行く。

先生の背中にギュウっと抱き着く。

ギュウ...って、力いっぱいに。

「フフッ...苦しいんだけど」
「...私も苦しいんです」
「オレそんな強く抱いてないでしょ」
「.....その『苦しい』じゃないもん...」

先生と初めてのキスをしたら、私はどうなっちゃうんだろう...って考えない筈は無かった。
だけどいくら考えたって、想像なんか出来なくて。

だって先生の隣に居るだけでも、死んじゃいそうにドキドキするのに。
それ以上の事が起きたら、私はどうなってしまうの？って。

「...苦しいです...」

骨っぽい背中を、もっと強く抱き締める。

幸せ過ぎて死にそう！なんて、ありがちな言葉で済ましたくないのに

「...先生の事が好き過ぎて、どうしたら良いのか分かりません...」

私は、幸せ過ぎて死にそう、なんだ。

「可愛いコトを言うんじゃないよ」

先生の声が、少し笑ってる。

笑いながら、私の背中を優しくトン、トン、トンとリズムをとるように叩く。

「あんまり可愛いコト言われると、色々と箍が外れるでしょうが」

先生の声が、『可愛い』って言う度に胸の奥の方がギュウ...って縮む。

「A？」
「...はい」
「そのまんまで、居てよ」
「......え」
「オレを好き過ぎてどうしよう！って、ずーっと思っててよ」

私が「へ？」って間抜けな声を出したら、彼はクスクス笑って

「オレがAを幸せにしてやりたいのに、何か...」

そこまで言った先生の腕の力が、また少し強くなった。