イロコイ・ライン 5th【ars K.N】 (ページ36)

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196.MILKTEA。ページ36

「あ、本来の目的忘れてんじゃん」

先生が顔を上げた。

「貸してやる本、持って来るわ」
「え？ここにあるんじゃないんですか？」
「こないだまで読んでたから寝室にある。ちょっと待ってて」

そのまま先生は書斎から出て行って、私はノートをまたパラリと捲った。

『久々の恋だわ』

さっきの先生の言葉が、耳の奥で繰り返される。
その声を忘れたくなくて、何度も何度も耳に焼き付けるように思い出す。

「...ん？」

捲ったページには、私の知らない歌詞が書いてある。

「......あっ」

そう言えば、花嵐堂で歌詞を書いてる時あった！
あの時のだ、きっと。

ワクワクしながら、一行一行、大切に目を通す。

「......」

ひとつひとつの言葉を、零さないように拾ってく。

「......」

その時

背中から覆い被さって来た先生が、私を囲み込むように机に両手を置いた。

先生の顔が、頬と頬が触れ合う程近くにある。
柔らかい髪が、私の髪と混ざる。

「...先生...」
「あー...もう最悪。これ書いてたの、すっかり忘れてたわ」

一番最後に書いてあったその曲のタイトルは、『ミルクティー』

「さすがにこれは、すっげぇ恥ずかしいんだけど」
「......」

先生が、更に私に体重をかける。

重い。
愛しい。
愛しい。
愛しい。

「『これは実体験？』って、訊かないの？」
「......」

【僕の苦手なミルクティーを好きな君を
　僕が好きになるのはきっと許されなくて】

【一緒に見た夜桜も大輪の花火も
　季節が変わったって忘れられないでいる】

「まぁ、訊かなくても分かるか」
「...先生...」
「オレの、実体験だ。今のオレの、ね」
「......っ」

流れた涙が落ちてしまう前に、先生が私の頬に口付けた。

歌詞は、こう続く。

【その真っ白な唇で
　僕に触れてはくれないか】

【誰の物でも無かった唇に
　触れさせてはくれないか】

「...A」

先生の方に顔を向けると、信じられない程近くに彼の目があって

潤んだ鳶色の目に、私が映っていた。

何故だか、涙が止まらない。

鼻の先が、触れ合って

息も出来ない。

「その唇に、触れさせてはくれないか」

「なんてね」って

小さく笑って囁いた先生の唇が

誰の物でも無かった私の唇に、触れた。

一秒も無かったかもしれないキスの後

「Aのここ」

そう言いながら、先生が私の唇を人差し指でなぞり

「もうオレの物になっちゃったね」

もう一度、さっきより少しだけ長いキスをした。