イロコイ・ライン 5th【ars K.N】 (ページ1)

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161.倍返しだ。ページ1

「どうする？先生って結構、束縛屋さんかもよ？」

...それでも良い。

「それでも良い、って顔してる」
「えぇっ！？」
「はい、図星ー」
「あ...」

恥ずかしくて、烏龍茶をズズズーっと啜る。

「ってゆーか、先生が本当に束縛屋さんだったらこうやって男と二人っきりで食事してるのってヤバくない？」
「...ヤバイ...んですか...？」
「ンハッ！俺に聞かないでよ！」

加藤さんがゲラゲラ笑った。

「その辺、ちゃんと最初に決めておいた方が良いよ？」
「その辺...？」
「どこまではOKで、どこからはNGとか。例えば、異性と食事はOK。だけど酒を飲むのはNGとか」
「...なるほど...」
「人によっても違うからね、その基準。しっかり話しておいた方が良いと思う。彼氏と」
「かっ...彼...っ...！？」

絶対にわざと『彼氏』って言ったんだ！
だってさっきまで『先生』って言ってたもん！

片方の口の端を上げて、加藤さんは可笑しそうに私を見てる。

「ドリア、冷めちゃうよ？」
「あ...はい...」

フォークを持って、ドリアの表面をツン...とつつく。
あぁ...食べる気になれない。
何これ。これも恋煩い？

─────『恋煩い』だ─────

昨日の先生の言葉と表情を思い出して、顔がカァっと熱くなる。

「俺はさ、あの小説をAちゃんに読まれたから隠しておきたかった事がバレたでしょ？」
「...はい」
「だから、先生も隠しておきたかったかもしれない事を俺が暴露したの。仕返し、仕返し。倍返しだ！」

古っ！って自分で突っ込んで笑った加藤さんが、にんじんのグラッセを口に運んだ。

「ま、この仕返しだとAちゃんは喜んじゃったかもしんないけどねー」
「...あー...」
「そこは俺の、優しさ？だよ」
「フフッ、はい」
「決してお人よしじゃないから！」
「うん」

結局私は全くドリアが喉を通らなくて、加藤さんが食べてくれた。
その代わりこれを食べなさいって、ハンバーグ定食についてたサラダをくれた。

ファミレスを出て、私は駅へ。
加藤さんはその向こう側へ。

「何か...ありがとうございました」
「ううん」
「じゃあ、また」
「うん。...あ！そうだ、もう一個」

加藤さんが振り返る。

「先生に、また日曜には花嵐堂に来て下さいって伝えといて？」
「え...」
「俺に気を使って来れないとか申し訳ない。大切なお客さんなのに」
「...加藤さん」
「ただし、イチャつくのは禁止ね！じゃ、バイバイ！」

高く挙げた手を振り、加藤さんは歩き出した。