イロコイ・ライン【ars K.N】 (ページ26)

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26.OBSTINATE。ページ26

翌日、朝から熱っぽかった。

真冬にあれだけ雨に打たれたんだから、風邪をひくのは当然かもしれない。

お母さんにも「顔色悪いから、休みなさい」って言われた。

だけど、昨日のコトを気にして学校を休んでるんだって先生に思われたくなかった。

そんなの、何かズルい気がしたから。

休んで先生の気を引いてるって、思われるんじゃないか...って。

それよりも私は平気な顔して学校に行って、逆に先生に気にして欲しかった。

私の存在を見て、気にして欲しかった。

ホームルームで教室にやって来た先生は、自惚れじゃ無くまず最初に私の席に目をやった。
　
私がそこに居る事を確認して、先生はすぐに出席簿に目を落とす。

「みんな、おはよ。出席とるよー」

先生が出席をとる声を、私はいつだって目を閉じて聴いていた。

そうした方が、雑音が無くなって先生の声だけを聴きとれるような気がしてたから。

こんな時でも、私の目は勝手に閉じて、耳は先生の声を必死で追う。

「結城」

先生が担任になってから、毎日、授業が無くっても必ず一度は名前を呼んで貰える事が嬉しかった。

「...はい」

返事をする時に目を開けて、先生を見る。

目が合った先生は、いつもと変わらぬ微笑みを見せ、いつもと同じように小さく頷く。

いつもと、何も変わらない。

何か、少しくらい、動揺してくれるのかな？なんて思ってたのに。

狼狽えてくれたり、するのかなって思ってたのに。

先生は、いつもと何も変わらなかった。

何も、本当に何も無かったみたいに、変わらなかった。

それが余計に、私の心を押し潰した。

私が原因で、ちょっとでも様子がおかしくなってくれたら良かったのに。

私のせいで、ちょっとでも悩み苦しんでくれたら良かったのに。

私のコトで、ちょっとでも困ってくれたら良かったのに。

心が、重い。

瞼が、重い。

頭が、重い。

身体が...重い。

「Aっ！？」

隣の席の子が、私の名前を呼んだ。

でも何で呼ばれたのか、分からない。

ただ、何だか腕と腰が痛い...

「結城！！」

先生の声が聴こえる。

「おい、結城！」

先生...先生......

誰かの手が、私の額に触れた。

冷たい。
冷たくて、気持ちが良い。

手が冷たい人は心が温かいって言うから、これは先生の手じゃないな。

じゃあ誰の手なんだろう..........

重たかった身体が、フっと軽くなったと同時に

何も、聴こえなくなった。