だから、君の隣で笑わせて (ページ16)

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Ki 16 ページ16

藤ヶ谷と楽屋でキスをした日から、藤ヶ谷の顔をまともに見れなくなってしまった

あの夜のキスとはわけが違う

酔っていたわけでも、そういう雰囲気になったわけでもなかったはずなのに

藤ヶ谷の気持ちが読めないまま、それでも毎日の仕事は進んでいく

必要な時に、必要なことを話すだけ
そんな業務的なやりとり

せっかく・・あの告白から8年たって、少しは藤ヶ谷との距離感を取り戻してきたかと思っていた矢先の出来事だった

いまだに藤ヶ谷をあきらめきれない、情けない俺のせいだ

わかってはいるのに、心と体がばらばらだった

俺達の様子に、ほかのメンバーも何かを感じ取っているようだった

弟たちに余計な心配はさせたくない

だけど、その思いとは裏腹に、自然にしようとすればするほど、自分の体が硬くなっていくのがわかった

そんな中で、藤ヶ谷と一緒の地方ロケを迎えた

その日は、ひどい豪雨だった

なんでも、今年史上初の台風が接近中とかで、今日のロケもさんざん中止にするか否かでスタッフは上ともめたらしい

「すみません・・やはり帰りの新幹線は動きそうもないです」

俺達の顔を交互に見たスタッフが申し訳なさそうにいった

明日の仕事のため、宮田と玉は収録を先に終え、一足先にここを経って東京へ帰ってしまった
スタッフを除けば、実質藤ヶ谷と二人きりということだった

「とりあえず・・ホテルは押さえましたので、今日はそこに泊っていただいて、明日の新幹線が動き次第帰りましょう」

スタッフの言葉に、俺の後ろのほうで藤ヶ谷が小さくため息を吐いたのに気づく

「仕方ないっすよねーこの天気じゃ、あっはは」

そのため息を、ほかの人間に気づかれないように、俺はわざと能天気に声を上げて笑って見せた
藤ヶ谷が、俺と二人きりのこの状況に嫌気がさしていることは、十分承知だったけれど、せめてスタッフの前だけでも、平気ですと言ってやらないと、スタッフに申し訳なかった

「重ね重ね申し訳ないのですが・・この天気で部屋が一つしかなくて・・」

俺達の前に出された、一つのルームキー

あ、これは最悪のパターンだ

「あー！いいっすよ！俺達昔は相部屋だった仲だし！！」

藤ヶ谷が、不満を表情に出す前に、俺は、スタッフに愛想笑いを作ってさっさとキーを奪い取ると、急いでエレベータのほうへ歩き出した

その後ろから、ゆっくりと歩いてくる藤ヶ谷が乗り込んだのを確認して、閉、のボタンを押す