だから、俺の隣で泣いてほしい

F 8 ページ8

ただひとつ、言えることがあるとするなら


この俺は、最悪、だということだ





「ミツー今日も可愛いね、小さくて♡」

「ねーキタミツ、せっかく髪の毛染めたから、もう一回カラオケ行って今度こそ、リアルミー歌いたい〜」


朝から7人で仕事があった俺達
楽屋では玉と、宮田がいつもと同様に北山にちょっかいをかけているけれど、それとなくかわすアイツ

穏やかで優しいようで、だけど、どこかぎこちない




俺のほうを、一度だって見ないのは、

昨晩の俺のせい・・



いや、もう、ここ最近、アイツがプライベートで俺を見てくれることなんて、なくなってしまったんだ




昨日の夜、
酔って、無抵抗な北山に・・キスをした

あの時の、あの空気感

北山の大きな瞳に吸い込まれるように、自然に、キスしてしまった

理性なんて・・・あっという間に崩れ落ちるほどに






「太輔、体調でも悪い？」


遠目からボンヤリと北山の姿を盗み見ている俺に、渉の声が響く


「いや・・昨日ちょっと飲んでて、まだ残ってるだけ」

「あー、そうなんだ」



そういうと、渉は整腸剤を渡してくれた

二日酔いなんて、いいわけもいいとこで、本当は昨日、北山の家から逃げるように帰ってきてからも、ほぼ寝れなかった


昨晩ベッドに組敷いたときに見た、北山の桜色に染まった赤い頬

うっすらと開けた瞳は潤んでいるように見えて、微かに開けた口からは、掠れる吐息




きっと・・

あれ以上したら、止められ・・なかった





俺は、スタッフが呼びに来る声で、スタジオに入るも、どこか気持ちが追い付かずに、ぼんやりとしたままで収録を終えた





「ちょっと・・いいか？」


北山から、収録終わりにふいに呼び止められて、思わず固まる


「・・・なに」


そんなこと聞かなくても、わかっているくせに


「あ・・ちょっと、」


言いづらそうな雰囲気を察知して、なんとなく楽屋を出て喫煙所へ向かうと、
少し間を開けた後、北山が同じように、そこへやってきた


合わせたわけでもないのに、そういうところだけは妙にお互いの心を読んでしまう


ドアがぱたんと無機質にしまった

F 9→←F 7

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す