意地っ張りな君へ

side Ki ページ33

「・・・このアホ、なんちゅー顔してんねん」
「っ・・・・」




震える、身体は、藤ヶ谷以外を拒絶するようにカタカタと止まらない
頬を伝う涙を、親指でそっと拭ってほしいのは、ただ一人だけだった


「俺・・無理だっ・・アイツが好きなんだ・・アイツ意外、考えられないっ・・！
抱かれるなら、アイツがいい・・藤ヶ谷のこと・・忘れたりなんてできない」



堰を切ったように、溢れた言葉と涙が、頬を伝って顎先からこぼれて雫がシャツを濡らしていく

重かった体の上から、ふわりと大倉が上体を起こしたのがわかった



「あーもう、素直やないんやから。俺の、抜群の演技力に感謝せいや」


大倉は、いつものようににこりと笑うと、俺をソファから引き起こして背中をポンポンと叩いた

「え・・」

「アホか、お前！俺が本気でお前のこと襲う思ったんか？」

「え・・いやだって」


「お前、ボケもたいがいにしぃ」


大倉の、珍しく荒げられた声に、思わず顔を上げた


「他の男に抱かれることもできひんうちに、気安く忘れるなんて言うなや」

「っ・・！」

「お前があんまりにも天邪鬼やから煽っただけや。俺はな、可愛くて胸のある女の子が好きやねん、お前みたいなごっつい男
抱いて、何の得にもならへんわっ、これっぽーーーっちもな！」


これっぽっちもの言葉を強調した大倉は、人差し指と親指がくっつきそうなほどのジェスチャーをして呆れた表情で俺を見た


「今俺に言ったこと、藤ヶ谷君の前で言って来ぃ。そして、さっさと抱かれて来い、アホが」


ぶっきら棒にそういった大倉が、俺の目の前に、俺が藤ヶ谷の部屋から回収してきた荷物の入った紙袋を突き付けた


「これ、思い出なんやろ？こんなもん大事そう抱えてくる奴が、なに忘れるとかぬかしとんねんアホ。お前には藤ヶ谷、藤ヶ谷にはお前、それでいいんやろ？さっさと素直になれや！！」

「おー・・くらぁ・・」

「あー、ほれ、ぶっさいくな顔やで、お前。せめて鼻水拭いてからいけや」



乱暴にティッシュ箱を差し出す大倉の顔を見ながら、涙でぐちゃぐちゃになったまま見上げると
大倉は、少し呆れたように、だけど優しく頭を撫でてくれた



「ま、次はお前のおごりやからな。高い店」


そういって、マンションのエントランスまで見送ってくれた親友の温かさに、
また少し涙がにじみそうになったけれど、大事な思い出の入った紙袋を、微かに感じる藤ヶ谷の香りと共に抱きかかえて俺はそのマンションを後にした

side Ki→←side Ki

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す