意地っ張りな君へ

side Ki ページ34

スマホのバッテリーをひっつかんで、ジャックにつなぐ
画面に充電マークが現れるのとほぼ同時に電源を入れた

カードキーを返した以上勝手に入れないけれど、今日は藤ヶ谷のマンションの前で徹夜したってかまわない

アイツに会いたい

焦る手で電源を入れると、急に電話が鳴った



「わっ！」




『・・たやま・・』



スマホから、聞こえたのは消え入りそうなほどか細い、藤ヶ谷の声だった

その声を、ただ聞きたくて

膝を抱えていた毎日








「お前・・どうしたの、こんな深夜に」

『・・なんで、電話・・』

「あ、ごめん・・充電きれてて・・」



話したいことは山ほどあった
言いたいことも、聞きたいことも

あやまりたいことだって


だけど、スマホ越しに聞こえてくるアイツの声は、哀しいほどに小さくて、微かに震えている気がした

藤ヶ谷の、表情は見えない

だけど



「いまから、そっち行くから」



アイツが、泣いている気がして

その涙を、ケータイ越しには拭ってやれないから



ただ、会いたい

どうしようもないほどに




藤ヶ谷の家の香りが残る、ジャケットをひっつかむと、俺は一目散に駆け出した

あの日の様に、少しだけ曇った空は、夜の香りがして、雨が降り出しそうに紫色に煙っていた

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