Remember Loving 【志麻】

recoup 10 ページ10

.



お母さんが気を回してくれて、立ってないで座り？とか、飲み物は？お腹は空いてない？なんて 色々聞いてくれるもんだから、

坂田は ええからゆっくりしてて、なんてしょんぼりと眉を下げて、俺も俺で 大丈夫ですよなんて無理に微笑みたたえて。

もう日は跨いでいて、本当なら寝てなアカン時間やけど、そんなことなんか気にせずに。
彼女がこんなんなってる中、俺だけ家でグースカ寝てるなんてありえへんし。





…まぁ、アイツが事故にあってる時は 俺は酒飲んでいい気持ちになってたわけなのだが。




うらたさんとセンラくんから なんか連絡が来てやしないかと、確認程度にスマホを開くと 気付かんかった電話が一つ。
見てみると、その電話はAからで。

…まだ、元気で ピンピンしたAから……


もう、これから先 一生話せないかもしれない彼女からの電話を、俺は 気付いてもやれなかった。…最低やん、俺。
留守電が残ってるようだったから、流石にここで聞くのもあれやし 後で確認しておこう、とスマホを閉じた。





それから数分後。目の前のトビラから先生が出てきて、俺らは 俯いた顔をぱっと上げ、立ち上がる。
いちばん凹んだように見えた Aのお父さんが 先生に詰め寄って、大丈夫なんですか!?なんて問うていて、

不謹慎やけど…もう、ドラマのワンシーンにしか見えなくて。こんなのって ほんまにあるもんなんやな、って また客観視。

マジで、俺の身近な人が そうなってるなんて 上手く考えられんかった。…いや、もしかしたら 考えたくないって心のどこかで思ってて、逃げてたのかもしれない。




｢ ヤマは越えたので、大丈夫だと思います。あとは、Aさんが目を覚ますのをゆっくりと待つだけです ｣


｢ いつ目覚めるかとか…そういうのは分からないんですか？ ｣


｢ …はい、それがいつか、とは一概には言えないです ｣


｢ そうですか… ｣


｢ 今、少しなら 時間取れますけど、会っていかれますか？ ｣


｢ っはい！！！ ｣






先生とお父さんが話してたのに、会っていかれますか？なんて質問に気付けば 何故か俺が答えてしまっていて。

やべ、と気付いた頃には みんなの視線がこっちに来ていて。えーと、と 視線をさまよわせていると、せやな…と お父さんが呟く。





｢ ほんの少し、会ってもいいですかね？ ｣


｢ はい ｣


こちらです、と案内してくれる先生の後について 俺は少し消毒液くさいその部屋に足を踏み入れた。

recoup 11→←recoup 9

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す