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坂田に 言われたしって最後の希望で、日を越して 今いる場所はAの家の前。ここに来るのも久しぶりやな、なんて考えて 気を紛らわせながら 震える指先で、インターフォンを押す。
はーい、と聞こえる声は なんとなく元気がないような気がして、坂田の話を聞いた後だと なんとなく期待しちまう。
「 俺だけど 」
「 …は? 」
「 開けてくんね?昨日お前が忘れてったの届けに来た 」
「 …わかった 」
忘れた物、なんて嘘だけど。
ただお前に会いに来ただけだ。
誰でもない Aに。
そっと開けられるドアが焦れったくて ぐっとドアを開くと、わっと 一緒に前に倒れ込んでくるA。
彼女を受け止めて、中に入る。ふわりと近くで香るAの香りに 胸が切なくなって泣くことは今日はない。
…まぁ、振られたらまた別の話やけど。
「 な、何しに… 」
「 お前に会いに来た 」
「 忘れ物って… 」
「 あぁ、あれ嘘 」
「 はぁっ!? 」
「 そうでも言わねぇと 開けてくれねぇと思って 」
驚いた顔で俺を見上げるAに、にやりと笑ってみせると ふいっと顔を逸らされる。
その目を、その顔を 俺だけに向けていてほしいなんて欲が ムクムクとでてきちまって。
俺は そっと彼女の頬に手を添える。
「 な、何して 」
「 嫌か? 」
「 っ… 」
「 嫌ならやめるけど 」
「 …別に、やめろとは…言って…ないけど… 」
ぽつりぽつりとそう言葉を零す彼女が可愛くて、俺は 彼女の目を覗き込んで くしゃりと笑ってみせる。
「 惚れたやろ、俺に 」
「 …うっさい 」
「 その反応も、一緒や 」
「 っそれやだ!! 」
「 あ? 」
「 …志麻が好きなのは、私だけど私じゃないって思う。それが…嫌だった 」
「 確かにせやな 」
「 っ… 」
うるっと目を涙に溜めて、俺を見るA。
そいつの目をじっと見つめながら、俺は言葉を続ける。
「 俺が付き合ってたのは前のお前やし、好きだったのも前のお前や。…でも、お前はお前だし、今のお前がどーでもよくて 好きでもなんでもなかったら、俺はこうして ここに来てない 」
「 志麻… 」
「 俺と、付き合ってくれるか? 」
そう言うと、彼女はぽろぽろと涙を流して こくこくと首を縦に降る。
それがどうにも嬉しくて、俺は ぎゅうっと彼女を抱きしめる。
見ると Aは、嬉しそうに微笑んでいた。
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ざゆ(プロフ) - 本当に本当に本当に最高でしためちゃくちゃ泣きました!!こんなすてきなさくひんをありがとうございます、また何回も読みに来ると思います本当に大好きです!! (2020年8月11日 1時) (レス) id: d0019edafb (このIDを非表示/違反報告)
空っぽのコップ(プロフ) - センラさんに正直に話す所から涙が止まりませんでした。こんなにも素敵な作品を作って下さってありがとうございます! (2019年6月28日 7時) (携帯から) (レス) id: 7582f8fce2 (このIDを非表示/違反報告)
零生(プロフ) - ぷりん畑さん» お返事遅くなって申し訳ありません。私の作品なんかで涙を流してもらえるなんて光栄です!ぜひrecoupを聴きながらまたこの作品を呼んでもらえると嬉しいです! (2018年6月7日 3時) (レス) id: c45c7990b9 (このIDを非表示/違反報告)
ぷりん畑 - お友の紹介で読み始めたんですが、夢主事故った位からずっとうぅうぅ泣きながら読んでました。またrecope聴きたくなりました。大好きです。 (2018年5月25日 22時) (レス) id: ddc5e690a1 (このIDを非表示/違反報告)
零生(プロフ) - 葵香さん» 素敵な曲ですよね、あの曲私大好きです(*´ω`*)ご覧いただきありがとうございました! (2018年1月18日 1時) (レス) id: c45c7990b9 (このIDを非表示/違反報告)
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