109話 ページ13
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「いつもの服ではなかったから少し別人だと思ってしまいましたわ!髪の飾帯も良く似合っていますわ!」
「そうかな?」
座りながら話しているAとナオミ
これで談笑するのは最後になるかもしれないから、と楽しんでいた
一方その頃、春野は久作と話していた
そちらも楽しそうだ
「早く、終わって欲しいですわ」
「……そうだね」
その言葉に簡単に頷いて良いのか
少なくとも自分は彼女達に害を与える存在になるのだ
今、こうやって話していることすら本来はおかしいのに
「今さっき組合の襲撃に遭いましたの」
「うん」
「兄様と国木田さんが咄嗟に助けてくれたから良かったですわ。でも、殺されかけたことが怖い。それにとても怯えている私がいる……」
「大丈夫……とは云えないけどさ」
Aは精一杯偽ってナオミの手を握った
大丈夫?そんな訳ない
今から自分は貴女に害を加えるんだ
そう云って逃がしたい気持ちも、久作との仕事を今すぐ止めて帰宅したい
だが、それを抑えた
この道を選んだのは自分自身だ
紅葉も、森も、これを判っていたのだろうか
「貴女は探偵社が守る。組合になんてやられない。だから、今は逃げることにだけ、集中して」
そのまま自分からも逃げて、なんて、莫迦げた話を云えたら、自分は彼女を、親友を殺さずに済むのかな
母親の云ったことを守れるのかな、なんて考えていてももう遅い
「…そう、ですわ。今私が心配して不安になっても、無駄ですもの」
「私は……またあの時みたいに仕事できることを楽しみにしてる。ナオミもきっとそう。だから今は全力で逃げること。探偵社員に戦闘は任せて、逃げること。捕まれば相手は殺しにかかるし拷'問だってするし、ナオミを人質にもする。非情な人間達。優しい人は居ない。だから、今は逃げることだけに専念してね」
遠回しに自分が直接手を下すことがあれば逃げて、と云った
次に逢う時は非情な自分かもしれない
人を殺すことに躊躇っている訳ではないけど、こんなことを思うなんて、
本当に、探偵社に毒されたんだな、とAはしみじみ思った
自分は、どちらにも染まれない人間なのだと
闇にしては情を持ち、光は才能が邪魔をする
今更後悔して戻る、なんて莫迦みたい
でも
「Aも頼まれごと、頑張ってくださいね!」
ナオミの眩しい笑顔を崩したくないと思ってしまった
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