7話 ページ9
.
太宰を見て、彼女は思った
ああ、本当にしょうがない人だな、と
彼が何を考えていても自分には興味がない…が、私はここで救いの手を差しだすことが優しさでお節介だとわかっている
私は敦のすぐそばに駆け寄った
「少なくとも、私は貴方が死んでいいとは思わないよ」
こうやって慰めることはあまり経験したことがないが、これで彼が楽になれるのなら
「敦君、孤児院では貴方に生きる資格なんてないって云われたのかもしれない。でも、それは孤児院の人達の主観でしかない。追い出されたことは不運なことだけど、せっかくだし、いろんなものを見て、経験して、自分にとっての生きる意味、探してみたら良いんじゃないかな」
多分、これが模範解答…なんだと思う
敦の表情が少し柔らかくなったことを確認すると、太宰が「そろそろかな」なんて呟いた
「今……そこで物音が!」
「そうだね」
太宰がそう冷たく返す
敦が云った大きな物音の正体は風で何かが落ちただけだ
でも、人喰い虎の恐怖で埋め尽くされた敦はそれが虎だと信じて疑わない
「ひ、人喰いとらだ。僕を喰いに来たんだ」
「…敦君、落ち着いて。虎はまだ、来てない」
「どうして判るんです!!」
虎なんて、今視界に映っていないのに、まるで今虎がこの場にいるかのように慌て出す敦を落ち着かせるが、それは逆効果だったみたいだ
そんなことは気にせず、太宰は説明を始めた
「経営が傾いたからって養護施設が児童を追放するかい?大昔の農村じゃないんだ。いや、そもそも経営が傾いたんなら一人二人追放したところでどうにもならない。半分くらい減らして他所の施設に移すのが筋だ。」
「太宰さん、何を云って…」
「君が街に来たのが二週間前、虎が街に現れたのも二週間前。君が鶴見川べりにいたのが四日前、同じ場所で虎が目撃されたのも四日前」
敦の姿が変わっていく
髪も、目も、手足も
全身が人間ではない動物の姿に変身していく
「国木田君が云っていただろう?『武装探偵社』は異能の力を持つ輩の寄り合いだと。巷間には知られていないが、この世には異能の者が少なからずいる。その力で成功する者もいれば____力を制御できず身を滅ぼす者もいる。大方、施設の人は虎の正体を知っていたが、君には教えてなかったのだろう」
敦の姿が完璧に変わる
彼女は数歩下がった
「君も異能の者だ。現身に機銃を降ろす月下の能力者」
敦がいた処には、月の光を浴びた白虎がいた
.
2人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ