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第四話『温かいポトフと冷製トマトスープ』 ページ20

やっぱり栄養は大事なんだと、横尾さんの作ってくれたポトフが教えてくれた。


午後の仕事は、いつもより捗った気がする。



「お疲れさまでした」



そう挨拶して、会社を出る。


いつもより早く帰れたから、久しぶりにスーパーにでも寄ってみようか。


自炊なんて大してできないくせに、そんなことを考えていた。




「あ、今日泣いてた人だ」



「・・・玉森くん」



私を見つけて、玉森くんが微笑む。



「・・・今日は泣いてない」



「じゃあ、昨日泣いたんだ。虫に刺されたんじゃなかったの?」



「いじめないで?」



「俺に嘘なんかつくからだよ」



どうか、泣いてしまった理由は聞かないで欲しい。


どうしても、その理由をあなたには知られたくないから。



「美味しかった?」



「え?」



「横尾さんのスープ」



「うん。すごく美味しかった」



しばらく私を見つめた後、玉森くんは私の手に冷たい缶ジュースを握らせた。



「これって・・・」



「あげる」




手のひらの中にあったのは、『冷製トマトスープ』と書かれた野菜ジュースだった。




「俺には作れないから。ポトフ?だっけ」



「どうしてこれをくれるの?」



「対抗心?」



「え?」



「横尾さんのスープに、負けたくなかったから」



「・・・・玉森くん?」



「俺だって思ってる。栗原に、元気になって欲しいって」



「ちゃんと元気だよ?」




玉森くんはしばらく下を向いた後、顔を上げて、私の顔をじっと見つめた。




「栗原を泣かしたのは、俺だよね?」




お互い見つめ合ったまま、少しも動けなかった。



「・・・違うよ?」



かろうじて口にした言葉が、少し震えてしまう。



「そう?」



「うん・・・・あの、スープありがとう。嬉しかった」



早口でそう言って、私は玉森くんに背中を向ける。





「栗原!ごめん!」




「・・え?」




「こんなことしか、できなくてごめん」





そう言って玉森くんは顔を歪める。





「充分だよ!」




スープを掲げて、玉森くんに手を振った。




冷製トマトスープは、どんな味がするんだろう。




温かな味なんてしないといいな。



ちゃんと、冷たいスープであって欲しい。





そうじゃないと、私はまた、きっと泣いてしまうから。

第五話『世話焼き』→←第四話『温かいポトフと冷製トマトスープ』



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マキ(プロフ) - かのんさん» うわーん( ;∀;)嬉しいです!ありふれたありきたりな話しか書けませんが、好きだと言ってもらえてすごーーく嬉しいです(*^^*) (2021年4月17日 13時) (レス) id: 50fef8eb31 (このIDを非表示/違反報告)
かのん(プロフ) - もう、本当に本当に大好きです!マキさんの作品、本当に大好きです!! (2021年4月16日 19時) (レス) id: 46e739e0e0 (このIDを非表示/違反報告)
マキ(プロフ) - eiennianatadakeさん» 最後まで読んでいただき、ありがとうございます(*^^*)私の書いたもので少しでも心が温まってくださったのなら、こんなに嬉しいことはありません(*^^*) (2021年4月15日 16時) (レス) id: 50fef8eb31 (このIDを非表示/違反報告)
eiennianatadake(プロフ) - とても心が温かくなるようなお話でした!展開にハラハラしたり泣けちゃったり次回のお話も楽しみにしています! (2021年3月4日 3時) (レス) id: 69ceef1236 (このIDを非表示/違反報告)
マキ(プロフ) - umiさん» このお話を好きになっていただけて嬉しいです!玉森くんのドラマが始まる前に書き終えたんですが、もうドラマも終盤ですね!時間が経つのが早くてびっくりしてます笑! (2021年3月3日 0時) (レス) id: 50fef8eb31 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:マキ | 作者ホームページ:http:/  
作成日時:2020年12月24日 1時

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